研究課題/領域番号 |
21K12214
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
中村 和樹 日本大学, 工学部, 准教授 (60435500)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 東南極 / 白瀬氷河 / 流動速度 / ALOS-2 / PALSAR / 氷厚 / CryoSat-2 / SIRAL |
研究実績の概要 |
陸域観測技術衛星2号(ALOS-2)搭載フェイズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ2型(PALSAR-2)の高分解能モードによる観測データに、オフセットトラッキング法を適用することにより、白瀬氷河と氷河を取り囲む定着氷の流動ベクトルを調べた。解析期間中の2017年4月の湾内定着氷の大規模流出に伴い、白瀬氷河の浮氷舌末端も流出し約15 km後退した。これに対応して、定着氷の流出以前の画像ペアと比較して、浮氷舌の流速にはその末端付近を最大とする年当たり0.20~0.38 kmの加速が見られた。一方で、氷河浮氷舌前面の定着氷も、氷河の流動方向に流動していることが初めて見い出された。定着氷の流動速度は、白瀬氷河末端に接している地点では氷河舌流動速度の20~90%であり、20 km程度のスケールで減衰していた。観測された浮氷舌と定着氷の流動は、定着氷の安定性により影響を受ける一方で、定着氷が実際に押され、控え壁の役割を果たしていることを証拠立てた。このことは定着氷の安定性の理解が、氷河の質量収支を考えるうえでの鍵となることを示している。 さらに、白瀬氷河の氷厚を推定することは氷床の消耗量を詳細に把握するために重要であることから、CryoSat-2搭載のマイクロ波レーダ高度計(SIRAL)データを用いて、氷厚の推定結果から経年的な変動を調べた。SIRALデータは静水圧平衡を仮定して氷厚へ変換する結果、氷床接地線から下流へ氷厚が薄くなる傾向が見られた。さらに、1998年、2005年、2018年には白瀬氷河の浮氷舌や氷河末端付近の定着氷が崩壊して流出し、これにより白瀬氷河の流動速度が加速することが観測されたが、これらと一致するように氷厚が低下する傾向が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
白瀬氷河のリュツォ・ホルム湾への直接的な流出を、氷河を取り囲む定着氷が抑制していると考えられてきたが、定量的な解釈に至る研究事例が無かった。このような中、白瀬氷河だけでなく定着氷の流動ベクトルについても求めることにより、白瀬氷河と定着氷の流動の相互作用を明らかにし、定着氷が白瀬氷河の直接的な流出について控え壁の役割を持つことを示すことができた。 さらに、白瀬氷河の氷厚の経年変化を調べることにより、白瀬氷河の浮氷舌や氷河末端付近の定着氷が崩壊して流出したイベントに呼応するように白瀬氷河の流動速度が加速することが観測されてきたが、これらと一致するように氷厚が低下する傾向が見られ、このことは連続の式により考察と一致した。 以上の進捗は当初の計画を超えた進展であり、白瀬氷河と定着氷の流動の相互作用をテーマにした成果は、Science of Remote Sensing誌に研究成果として投稿して受理され、白瀬氷河の氷厚の経年変化を調べた結果を取りまとめた成果は、Remote Sensing誌に投稿して受理された。
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今後の研究の推進方策 |
白瀬氷河は東南極におけるリュツォ・ホルム湾を流出口としており、その末端部は浮氷舌として海に張り出し周囲は定着氷に囲まれている。定着氷や浮氷舌は氷河の直接的な流動を抑制するように働くと考えられるが、これまでその役割は捉えられてこなかった。このことから、氷河、浮氷舌、定着氷の相互作用を調べるため、ALOS-2/PALSAR-2の高分解能モードデータにオフセットトラッキング法を適用して、大規模な定着氷流出が生じる前後での白瀬氷河、浮氷舌、氷河末端を取り囲む定着氷における流動ベクトルの分布とその変化を詳細に調べる。さらに、CryoSat-2/SIRALにより、白瀬氷河、浮氷舌、氷河末端を取り囲む定着氷における氷厚の分布とその変化を詳細に調べることにより、氷河の流動場とその氷厚変化に伴う3次元の時空間動態を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に、プロセッサを一新した高性能な計算機がApple社より発売されることになり、白瀬氷河の流動速の計算をより効率的に実施することが可能になることから、今年度の計算機の購入予定を変更した。
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