研究課題
ブラックカーボン(BC)の気候への影響を評価するためには、気候モデル計算に正確な排出インベントリを用いることが不可欠である。しかし、ボトムアップ型の排出インベントリは、中国からの人為起源BC排出量に大きな不確実性が含まれており、排出量の急速な変化を捉えることも難しい。本研究では、日本のリモートサイトにおける地上観測と化学輸送モデルを用いて、2009-2022年までの中国からの人為起源BC排出量の長期トレンドを推定した。その結果、中国のBC排出量は継続的に約-5%/年のペースで減少していた。この減少ペースは最新の6つの排出インベントリよりも速く、観測に基づく推計値とインベントリの差は、近年徐々に大きくなっている。過去と将来の気候変動に対するエアロゾルの影響を正確に評価するためには、第7期結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP7)のインベントリに本研究で明らかになった急激な減少を反映させる必要がある。人為起源のBC排出量が最も多い東アジアを対象に、CMIP6に参加した12の気候モデルを用いて、過去再現実験と将来シナリオ実験におけるBCの質量濃度レベルと長期的な傾向の再現性を評価した。福江島と能登における2009-2020年の地上観測と比較したところ、CMIP6のマルチモデル平均値は、観測のBC濃度よりも約2倍高く、減少傾向も再現できていないことがわかった。化学輸送モデルを用いた感度実験から、CMIP6で使用されたインベントリ(CEDSv2017-05-18)における中国のBC排出量の過大評価と増加傾向が、BC濃度の過大評価と観測と逆のトレンドになっていることの原因であることが示された。CEDSインベントリを用いた場合のBC直接放射効果は、観測されたBC濃度をよく再現するECLIPSEv6bインベントリと比べて東アジアで72%高かった。
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SOLA
巻: 19 ページ: 239~245
10.2151/sola.2023-031