研究実績の概要 |
気候や環境,人体の健康に多大な影響を及ぼす二次有機エアロゾル(SOA)の生成過程の解明は,近年の大気化学において重要な課題となっている.SOAの主な生成源としてモノテルペンの酸化体が注目されているが,それら化合物の大部分において,官能基や構造は同定されておらず,SOA生成過程の理解に至らない原因となっている.そこで本研究では,研究代表者が開発してきた,有機化合物をリアルタイムに脱プロトン化させることが可能な「精密コロナ放電イオン化法」と「高分解能衝突誘起解離質量分析法」を組み合わせ,テルペン酸化体に含まれる官能基をリアルタイムかつ正確に同定するための手法開発を目的とする. 今年度はα-ピネンに由来する酸化体の標準品11種((i) pinonic acid, (ii) pinolic acid, (iii) pinic acid, (iv) 2-hydroxy-3-pinanone, (v) 2,3-pinanediol, (vi) α-pinene oxide, (vii) pinolic acid-d, (viii) pinone-4-ol, (ix) norpinonaldehyde, (x) pinonaldehyde, (xi) pinolic alcohol .このうち(vii)~(xi)は分担者・入江による合成品)を用い,衝突誘起解離法で見られる中性種脱離と官能基の関係を調べた.具体的には,精密コロナ放電イオン化法で生成した標準品の脱プロトン分子をそれぞれプリカーサーイオンとして選択し,プリカーサーイオンから直接脱離する中性種とプリカーサーイオンが有する官能基の間に規則があるか否かを調べた.その結果,官能基と中性脱離種には明確な関係があること,さらに官能基が脱プロトン化しているか否かで脱離する中性種が変わることを見出した.例えばカルボキシル基を有する酸化体を測定した際,カルボキシル基が脱プロトン化している場合(-COO(-))はCO2が,中性の場合(-COOH)にはCH2O2(H2O+CO)が脱離した.このような官能基と中性脱離種の関係を用い,来年度は実際のテルペン酸化体の官能基解析を実施していく.
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