研究実績の概要 |
千葉県習志野市に位置する谷津干潟では,富栄養化によって2018年ごろまで海藻アオサの異常増殖(グリーンタイド現象)が観測され問題視されてきたが,2018から2020年以降海藻の優占種がオゴノリに変わるレジームシフトが生じた.レジームシフト後も富栄養化を引き起こす栄養塩の一つである無機態窒素種濃度(NH4+, NO3-)は高い値で推移しており,その動態が懸念されている.本研究では,無機態窒素種の動態を支配する硝化に着目し研究を行った.硝化の進行の評価には,硝化でのみ生成されるヒドロキシルアミンの濃度測定を利用した. ヒドロキシルアミン濃度の測定は,疎水性樹脂Sep-Pak C18を用いた固相抽出法で行った。昨年度までの検討の結果,谷津干潟におけるヒドロキシルアミンは,海水ではなく主に堆積物表面において生成され,活発な硝化が進行していることが明らかとなった.また,堆積物表面における硝化の進行が,その後の窒素除去過程を担う脱窒を支配していると推察された.この結果を踏まえ本年度は,谷津干潟の堆積物表面におけるヒドロキシルアミン濃度と環境因子の関係を重回帰分析によって解析した.堆積物表面におけるヒドロキシルアミン濃度は,温度,海水および間隙水のNH4+濃度に正の相関を示した.このことから,硝化の進行は温度に依存し,また間隙水だけでなく海水のNH4+にも依存していることが明らかとなった.さらに,堆積物の嫌気環境の発達のレベルを示す間隙水中のPO43-濃度に負の相関を示したことから,嫌気環境下で硝化は阻害されることが示された.谷津干潟は周辺がコンクリートで囲まれた半閉鎖的な干潟であり,潮汐の影響は受けるものの海水が滞留しやすい.海水の滞留時による嫌気環境の発達により硝化が阻害されることで脱窒が進行せず,窒素が干潟内に貯留される可能性があると考えられた.
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