研究課題
今年度は、ナノ濾過等の膜技術を使った高精度DON定量と分子量別DON分画を中心に研究を 進めた。新たなDONの定量法として、ナノ濾過による燃焼酸化法を検討した。ナノ濾過により無機態窒素とDONの分離が可能であることを確認した。また燃焼酸化法では、流通している測定装置では窒素酸化が十分でなく、従来の湿式酸化による全窒素定量と無機窒素定量の差分法と比較して、有意な定量値を得られなかった。そのため、従来法による定量法を採用した。分画条件や膜の種類を検討して、スパイラル膜の限外ろ過、ナノ濾過による分子量別DON分画法を確立し、琵琶湖湖水DONを限外ろ過膜による高分子量分画(>30kDa)での回収と、ナノ濾過膜での低分子量分画(>0.15kDa)での回収を行った。高分子量分画の試験では必要とされる高分子量の溶存有機物(DOM)の回収をサイズ排除クロマトグラフィーにより確認した。ナノ濾過膜の試験では、逆浸透膜による湖水中のDOM全量回収と比較を行った。ナノ濾過膜では一部DOMの通過、逆浸透膜では膜へのDOMの吸着があり、両者の回収率に大差はなかったが、ナノろ過膜では、回収液中の塩の析出を抑えられることから有効であることを実証した。また、本研究で検討した限外ろ過の分画条件などの知見を用い、過去にデータを得ていた限外ろ過を用いた日本の湖沼によるDOMの特性について、分子量分画によって得られる紫外吸収の差異から新たな特性把握の手法を見出したことを論文にまとめた。
2: おおむね順調に進展している
DONの高精度定量法は、実績欄にあるように期待通りの成果ではなかったが、おおむね計画どおりに進捗した。分子量別分画法の確立は、測定できるところまではおおむね計画どおりに進捗した。しかし、当初の計画では分画法を確立した上で、ナノ濾過による琵琶湖水のDONの試験を複数試料で行う予定であったが、使用していたナノ濾過膜が急速に劣化する現象が見られ、複数の試料を測定するに至らなかった。年度後半には、ナノ濾過膜の劣化にかかるろ過システムの問題、使用する膜の問題の2点から原因究明を行った。システムの改良および各種ナノ膜を用いた膜の耐久性試験を行った結果、使用していたナノ濾過膜には耐久性に問題があり、別メーカーのものを用いることで問題を克服した。ナノ濾過で得られた湖水濃縮試料は、Multi Shot-Pyrolizer GC/MSを用いた分析条件の設定等を進めている。LC-FLDを用いたD-アミノ酸バイオマーカーの分析法について、迅速化等の改良を検討している。また別途、琵琶湖水のモニタリングを実施して、湖水DOMの蛍光成分や底質の化学成分についても解析を進めた。
当初の計画では、限外ろ過膜を3種類用いて、高分子量、中分子量、低分子量に分画して、生分解実験や化学組成分析を行う計画であった。しかし、これまでの進捗のとおり、複数試料の試験を行うことができなかったことから計画を変更する。湖水からのろ過と大量濃縮を行う試験について、高分子量、低分子量の2画分として、マイクロコスム生分解実験と複数の分析法による包括的なDON化学組成分析を実施する。実験や分析の詳細については、計画どおり行う。一方、小規模の限外ろ過システムを用い、湖水を高分子量、中分子量、低分子量に分画してDON成分を測定することとして、本年度に複数の湖水試料において測定を試みる。また、別途実施している琵琶湖水モニタリングを継続し、湖水DOM成分のサイズ排除クロマトグラフィーと蛍光解析や底質成分のGC/MS解析からもDONの化学成分の解明につなげる。
物品購入について、小規模ろ過システムを改良することで、当初計画していた大型ポンプなどの購入物品を大幅に減らすことができた。コロナ感染症の広がりにより、学会等の参加がオンラインとなり、旅費の使用がなかった。また当該年度での実験方法の確立に遅れが生じたため、実験補助業務を減らした。次年度では、研究補助職員を雇用して業務進捗の遅れを取り戻す予定である。
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