研究課題/領域番号 |
21K12237
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
保田 隆子 日本女子大学, 理学部, 研究員 (40450431)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | マイクログリア / 免疫細胞 / 免疫暴走 / サイトカインストーム / メダカ胚 / 放射線 |
研究実績の概要 |
本研究では、脳腫瘍放射線治療の副作用を軽減・回避する新規な治療法として、放射線誘発性の脳内免疫暴走を制御することを目的として、脳のサイズが哺乳類と比較して大変小さく脳全体を俯瞰的に観察することが可能なメダカ胚を利用して研究を行う。脊椎動物に共通する基本的かつ普遍的なメカニズムを研究する上で、メダカは有効な小型魚類モデルである。胚体が透明でかつそのサイズが極めて小さいため、放射線により脳内へ誘発されたアポトーシス細胞を貪食するミクログリアの動態を脳全体で詳細に観察できる利点があり、これまでin vivo イメージングによって放射線応答の全貌を明らかにしてきた(Yasuda et al., 2015, 2017)。放射線照射24時間後から活性化したミクログリアが神経保護的に働くM2型から神経傷害性M1型へ極性が変化し始める。アポトーシス細胞の貪食は照射40時間後にはほぼ終了するにもかかわらず、照射50時間後も脳全体に過剰に活性化したM2型ミクログリアが蔓延していた。本研究において活性化したミクログリアによるアポトーシス細胞の貪食・除去など神経保護的なM2型の役割を抑制することなく、過剰な活性化の状態にあるM1型ミクログリアを制御可能な薬剤のスクリーニング、およびその投与タイミングを明らかにして、メダカ胚を利用した放射線誘発性サイトカインストームを回避する方法を提案することを目指す。本年度はCOX2阻害薬で抗炎症作用がゼブラフィッシュで認められているインドメタシン、過剰なミクログリア活性の制御が既にマウスで報告されているイベルメクチン、炎症性サイトカインIL-1βの放出を制御してミクログリア活性化を抑制するテトラサイクリン系抗生物質ミノサイクリン、3種の薬剤投与を試みた。現在、ミノサイクリン投与群において数個の照射胚に薬効が認められたのでこの薬剤を中心に解析を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は3種類の薬剤:インドメタシン、イベルメクチン、ミノサイクリン塩酸塩それぞれを5種類の希釈濃度に調整して照射胚へ投与後、照射48時間後にミクログリアの過剰な活性化が抑制されるか否かを調べた。薬剤はアポトーシス細胞が誘発され始める放射線照射4時間後から投与を開始した。実験はメダカ胚体内へ薬剤が浸漬されやすいように全てのサンプル胚について胚体を傷つけないよう細心の注意を払いながらメスで卵殻へ切り込みを入れ、26℃のインキュベーター内で44時間(放射線照射48時間後まで)薬液を浸漬させた。薬剤を投与終了後、ApoE遺伝子をプローブとしたin situハイブリダイゼーション法によりメダカ胚脳内ミクログリアの分布を調べ、ミクログリアの過剰な活性化が抑制される薬剤のスクリーニングを試みた。COX2阻害薬で抗炎症作用がゼブラフィッシュで認められているインドメタシンの投与では、活性化ミクログリアの数に顕著な減少は認められなかった。この結果からインドメタシンがメダカcox2遺伝子へは作用しない可能性が示唆された。過剰なミクログリア活性の制御が既にマウスで報告されているイベルメクチンの投与をメダカ照射胚へ試みたが、メダカ胚脳内で誘発されたミクログリアに顕著な抑制は認められなかったため、p2x4受容体がメダカ胚には存在しない可能性が考えられた。現在、ミクログリアの活性を抑制することが報告されているテトラサイクリン系抗生物質ミノサイクリン塩酸塩を投与後、in situハイブリダイゼーション法によりミクログリアの分布を調べたところ、一部の薬剤投与胚にミクログリアの活性が抑制された胚が認められているのでこちらの薬剤を使用して詳細な検討を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
現在脳内に分布するミクログリアの数を定量化して薬効の評価を行っているが投与群と非投与群において、ミクログリアの大きさや形状が明らかに異なる様相が観察された。このため薬効をミクログリアの数のみで評価する手法では正確な評価とはいえないため、今後はシグナルと非シグナル領域を二値化してImageJによる解析を進める予定である。現在、3薬剤を投与したが、薬効が認められたのは1薬剤のみである。今後は候補薬剤を増やして投与を試みていく。現在、アポトーシスの誘発が起こる放射線照射4時間後のタイミングで薬剤を投与しているが、投与の開始をM2型ミクログリアがM1型ミクログリアへ極性転換し始める放射線照射24時間後に変更して薬効を調べることも試みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
ミクログリアの詳細な観察が可能なカメラを購入予定であったが移動先の日本女子大学深町研究室に既に備えられていたため購入の必要がなくなった。こちらの未使用分は、今後ミクログリアの動態を解析する際imageJを使用したデータ解析を予定しているため、解析マクロを組むのに必要な経費として捻出したい。
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