研究課題/領域番号 |
21K12238
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
金尾 梨絵 名古屋大学, 環境医学研究所, 助教 (30542287)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | DNA損傷トレランス / PCNA / ユビキチン化 |
研究実績の概要 |
紫外線や放射線、化学物質などによって生じるDNA損傷はDNA複製を阻害するが、細胞は、DNA損傷があっても複製を継続するメカニズムを備えており、DNA損傷トレランスと呼ばれている。DNA損傷トレランスには、損傷DNAを鋳型にDNA合成を行う損傷乗り越えDNA合成(TLS)と、損傷のない姉妹染色分体の新生鎖を鋳型にDNA合成を行う経路があると考えられており、DNA複製因子であるPCNAのユビキチン化によって制御されることが示唆されている。しかし、ヒト細胞ではTLS以外のメカニズムの詳細は不明な点が多い。これまで、ヒト細胞のDNA損傷トレランスの研究は紫外線損傷を中心に行われてきた。紫外線損傷に対しては、DNAポリメラーゼ・イータ(Polη)によるTLSが主要な経路であり、モノユビキチン化PCNAが重要な役割を果たす。紫外線損傷に対してはPolηの寄与が大きく、他の経路の解析は困難であった。本研究では、紫外線損傷とは異なるDNA損傷を用いることで、ヒト細胞におけるTLS以外の経路を明らかにすることを目的としている。 これまでの解析で、新たなDNA損傷トレランス因子としてユビキチンE3リガーゼであるRFWD3を見出しており、本研究ではDNA損傷トレランスにおけるRFWD3の機能解析を行っている。 RFWD3はこれまでに、鎖間架橋修復に必要であり、相同組換え反応に関与することやDNA損傷チェックポイント機構への関与が報告されている。しかし、RFWD3のDNA損傷トレランスでの機能は鎖間架橋修復因子とは独立していると考えられる。本年度は既知のRFWD3の機能がDNA損傷トレランスにおいても重要であるかどうか検討した。このため、複数のRFWD3変異体を作成し、相補実験を行った。また、これまで知られているRFWD3の基質についてDNA損傷トレランスとのかかわりを検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
RFWD3相互作用解析のための免疫沈降実験のため、エピトープタグを付加したRFWD3発現細胞樹立を行ったが、当初付加したエピトープタグでは細胞内でRFWD3が機能しないことが示唆されたため、別のタグに変更することとした。これらの検証に時間を要したため、当初計画よりもやや遅れている。また、RFWD3の生化学的な機能解析のためにRFWD3組換えタンパク質の発現、精製を進めているところであるが、RFWD3タンパク質は発現、精製共に非常に困難であり、条件を検討しながら進めている。 RFWD3発現抑制時の変異解析、及び紫外線損傷に対する解析については着手しており、解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
RFWD3相互作用因子の解析、RFWD3発現抑制細胞のDNA損傷誘発変異の解析、また紫外線損傷のDNA損傷トレランスにRFWD3が関与するかどうかの解析などを進めることにより、RFWD3のDNA損傷トレランスにおける機能を明らかにしていく。 RFWD3は細胞増殖に重要であることが示唆されており、ヒト細胞においてノックアウト細胞の作製は困難であることから、今後も発現抑制実験を中心に進めていく。また、これまでの解析からRFWD3タンパク質が不安定であることが考えられるので、それを考慮しながら解析を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度行う予定であったプロテオミクス解析の準備に時間を要したため、次年度に解析を行うことになった。このため次年度使用額が生じている。次年度、免疫沈降実験のための細胞株を樹立し、RFWD3相互作用因子の解析を行う予定である。
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