研究課題/領域番号 |
21K12242
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
吉田 佳世 大阪公立大学, 大学院医学研究科, 准教授 (30311921)
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研究分担者 |
森田 隆 大阪公立大学, 大学院医学研究科, 客員教授 (70150349)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 宇宙放射線 / 染色体異常 / リスク評価 |
研究実績の概要 |
宇宙は放射線、微小重力、高真空など過酷な環境である。特に、長期滞在による人体への宇宙放射線の影響は、人類の未来にとって重要な課題である。地上での放射線の被ばく線量は1年当たり約2.4 mSv、一方、国際宇宙ステーション(ISS: International Space Station)での被ばく線量は1日当たり0.5~1mSvで地上での約半年分に相当する(宇宙航空研究開発機構:JAXA)。さらに、火星への往復となると宇宙放射線の被ばくは、約660 mSvに達し、ヒトに重篤ではないが異常が現れる量となる。これまで、宇宙放射線の物理的線量が測定されてきたが、直接的な生物学的影響の測定は、低線量および低線量率の影響によって難しかった。宇宙放射線の生物学的影響を評価するために、ISSへ凍結マウス胚性幹(ES)細胞を打ち上げ、「きぼう」実験棟内の冷凍庫(MELFI)で最大1,584日間保管した。回収後、凍結細胞を解凍して培養し、それらの染色体異常を解析した。地球上での比較実験として、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の重粒子線がん治療装置(HIMAC)を用いて陽子と鉄イオンの照射実験を行い、同様に染色体異常を解析した。その結果、放射線に感受性の高いヒストンH2AXをヘテロ欠損したマウスES細胞では染色体異常の増加が検出できた。一方、細胞に取り付けられた受動積算型宇宙放射線線量計(PADLES)による放射線の線エネルギー分布から得られた宇宙放射線の線質係数は、今回得られた値に近いことが明らかとなった。この比較研究は、宇宙での人間の滞在の発がんや遺伝的影響などリスク評価の確実性を高めるに重要であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国際宇宙ステーション(ISS: International Space Station)の「きぼう」実験棟内の冷凍庫(MELFI)で、14, 23, 38, 52か月保存されたマウスES細胞を地上に回収後、培養して染色体解析を行った。また、物理的な受動積算型宇宙放射線線量計(PADLES)によりISS内での吸収線量率が永松らにより約0.4mGy/day と検出されているため、0.6Gyを挟むように0.2Gyと1.0Gyで陽子線と鉄イオン線の粒子線を国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の重粒子線がん治療装置(HIMAC)で凍結ES細胞に照射した。染色体異常の線量に対する増加率を比較すると、鉄イオン線がもっとも、高く、重粒子線の生物学的効果が高いことを示している。また、ISS内での宇宙放射線の生物学的効果が高く、陽子線は最も低いことが明らかとなった。これらの量的比較から、ISSの冷凍庫(MELFI)内での宇宙放射線の生物学的影響は陽子線の1.54倍であることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
長期間宇宙空間に滞在する場合、宇宙放射線の被ばくによる染色体異常の計測、さらにはこの染色体異常がどのように回復するかを解明することはリスクの低減を予想する上で重要である。今後は、当初掲げた宇宙放射線を照射されたES細胞の培養による時間経過と修復過程の解析を行う。このような染色体修復のメカニズムの解析は、低線量、低線量率で長期間放射線に被曝する慢性的被爆における生物学的影響の低減に寄与すると考えられるため、今後は、マウスES細胞を長期間培養し、経時的に染色体異常の種類と頻度についてFISH法を用いて解析することにより、宇宙放射線による被ばくの生物学的影響を具体的に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
必要な試薬の国内在庫がなく、次年度購入する予定である。
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備考 |
2022 Annual Highlights of Results from the International Space Station(https://www.nasa.gov/sites/default/files/atoms/files/annual_highlights_results_iss_2022_np.pdf)(2023.Jan 31)
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