電離放射線などにより生じるDNA二本鎖切断(DNA double-strand break: DSB)は最も細胞毒性の高いDNA損傷の一つである。ヒト細胞においてDSBは主に、相同組換え修復あるいは非相同末端再結合により修復されるが、これらの修復経路の最上流ではMRN(MRE11-RAD50-NBS1)複合体がDSB応答全体を制御する。従って、MRN複合体制御の解明は、DSB修復の全容の理解に必須である。本研究では、MRN複合体と相互作用する新規因子として同定した核内ミオシンのDSB修復における機能を解明することを目的とした。今年度では、ヒト細胞核抽出液を用いた共免疫沈降実験から核内における核内ミオシンとMRN複合体との相互作用を検出した。さらに、エピトープタグを融合したNBS1もしくはRAD50の共免疫沈降実験から、内在性核内ミオシンとMRN複合体との相互作用が認められた。さらに、NBS1あるいはRAD50をノックダウン後でも、MRE11と核内ミオシンとの相互作用が認められた。これらのことは、核内ミオシンは核内においてMRN複合体中のMRE11と主に相互作用することを示唆している。さらに、前年度までに樹立した核内ミオシンノックアウト細胞を用いた解析では、核内ミオシンノックアウト細胞は、トポイソメラーゼI阻害薬であるカンプトテシン(片側のみのDSBを誘発し、相同組換え修復反応を検討する場合に使用する)処理後において、相同組換え修復の初期過程に遅延あるいは減弱が認められた。 本研究により、1)核内ミオシンが核内においてMRN複合体のうち、MRE11と相互作用し、DSB発生後も相互作用が維持されていること、2)核内ミオシンのノックアウト細胞、及び核内ミオシンのノックダウンにより、核内ミオシンが相同組換え修復の初期に機能すること、3)核内ミオシンをライブセルイメージングにより可視化することができたが、DSB部位への集積の検出にはさらに高感度なシステムが必要であることが明らかになった。
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