研究課題/領域番号 |
21K12249
|
研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
鈴木 雅雄 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子医科学研究所 重粒子線治療研究部, 専門業務員 (70281673)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 放射光X線 / X線マイクロビーム / 細胞質限定的照射 / 細胞核限定的照射 / 放射線適応応答 / バイスタンダー効果 / ギャップジャンクション / 細胞間情報伝達機構 |
研究実績の概要 |
令和3年度の研究を継続して、特に【個別研究目的3】に記載したintercellularの細胞応答に起因するバイスタンダー効果を明らかにするために、以下の課題に焦点を当てた実験を実施した。 (1)蛍光染色しマイクロビーム照射システムで認識した全細胞のうち、ランダムに選択した10%の細胞質に予め10レントゲン(0.092Gy)を照射し、約3時間炭酸ガスインキュベーター内で保持して細胞応答発現を完了させた後細胞核に10レントゲン照射したときの致死効果をコロニー形成法による細胞増殖死として検出した。 (2)上記の実験で予めの細胞質照射からそれに引き続く細胞核照射までの時間にギャップジャンクション阻害剤を併用し、細胞間情報伝達機構がintercellularの細胞応答に及ぼす影響を明らかにするためのマイクロビーム照射法を検討し、最適な照射条件を抽出した。
得られた結果は、認識した100%の細胞質に予め10レントゲンを照射し、引き続き細胞核に10レントゲン照射したときの生存率は昨年度の報告を再現し98%となった。それに対してランダムに選択した10%の細胞質に予め10レントゲンを照射し、引き続き細胞核に10レントゲン照射したときの生存率は、95%となり100%細胞質照射のデータと有意な差が無かった。また、ギャップジャンクション阻害剤を併用した照射条件での予備実験結果は生存率が77%となり、100%細胞核のみの照射の場合とほぼ一致した。以上の結果から、intracellularに加えてintercellularの細胞応答によってもバイスタンダー効果が誘導され、その結果細胞核へのX線照射による細胞損傷を軽減する効果が誘導されること、その効果はギャップジャンクションを介した細胞間情報伝達機構によることが示唆される。令和5年度は、さらに照射実験を繰り返しデータの再現性を確認する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本申請研究を実施するために利用する所属機関以外の研究施設での共同利用研究として、すでに採択されている高エネルギー加速器機構放射光共同利用実験課題(課題番号:2021G539、課題名『細胞質へのX線照射がトリガーとなる放射線適応応答へのバイスタンダー効果の関与』、課題代表者:鈴木雅雄)によって放射光照射実験のマシンタイムは確保できている。しかし、新型コロナウイルス感染対策のための影響や電気代高騰による高エネ機構の加速器運転が一部短縮されたため、当初の予定よりも2回マシンタイム減となった。そのため、当初の研究計画から若干遅れが生じた。
|
今後の研究の推進方策 |
令和5年度もロシアによるウクライナ侵攻に終わりが見えないことから、エネルギー問題の根本的な解決は難しく、依然として電気代高騰を理由にした年間のマシンタイム削減のリスクは残る。しかし現段階では高エネ機構より正式な発表は無く、すでに5・6月に2回のマシンタイム配分を受けているため、その実験で最大限の成果を得られるようしっかりと準備し実験に集中する。幸い令和4年度にギャップジャンクション阻害剤を併用した照射実験実施のための条件出しに成功し、プレリミナリーではあるが照射実験を行うことが出来たため、今年度与えられた実験機会に注力して実験を実施する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
電気代高騰により、量子科学技術研究開発機構・高崎量子応用研究所で実施予定であったマイクロビーム照射実験のうち、1回分がキャンセルとなりそれに充当する予定の出張旅費が不使用となったため次年度使用額が生じた。2023年度はこの研究課題の最終年度にあたり、得られた研究成果の論文発表や学会発表を予定しているため、その部分に充当する。
|