研究課題/領域番号 |
21K12253
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
東 恒仁 北海道大学, 医学研究院, 助教 (90453018)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 不飽和カルボニル化合物 / プロテインキナーゼC / フェロトーシス |
研究実績の概要 |
不飽和カルボニル化合物は、有機化合物の不完全燃焼によって発生する環境毒性物質である。不飽和カルボニル化合物は、肺でのガス交換を介して体内に取り込まれ、生理機能に影響を及ぼすと考えられている。不飽和カルボニル化合物を高濃度に含むものとしては、タバコ煙が挙げられる。喫煙が生体に与える影響としては、動脈硬化症や高血圧症などの循環器疾患、COPDや喘息などの呼吸器疾患の他に、近年、易感染性が指摘されている。そこで令和4年度は、タバコ煙や不飽和カルボニル化合物が免疫系細胞に対してどのような影響を及ぼしているかを検討した。タバコ煙ガス相および代表的な不飽和カルボニル化合物であるアクロレイン・メチルビニルケトンは、マクロファージ系培養細胞であるJ774細胞に対して低濃度で細胞死を誘導した。フェロトーシス阻害薬ならびにプロテインキナーゼC(PKC)阻害薬は、ほぼ完全にタバコ煙ガス相・アクロレイン・メチルビニルケトンによる細胞死を抑制したことから、これらの化合物による細胞死はPKC依存的なフェロトーシスであることが強く示唆された。PKCは10種類のアイソフォームから成るキナーゼであることから、どのアイソフォームがこのプロセスに関与するかを検討した。shRNAによる検討が不調であったため、アイソフォーム特異的な阻害薬を用いた薬理学的手法による解決を図った結果、conventional PKCに属するPKCの阻害薬が細胞死を抑制した。以上の結果から、不飽和カルボニル化合物は、conventional PKCを介してフェロトーシスを誘導することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度には、体内の免疫作用の制御に関与するマクロファージに対する不飽和カルボニル化合物の影響に関して検討を行った結果、不飽和カルボニル化合物がPKC依存的にフェロトーシスを誘導することを見出した。更に薬理学的手法により関与するPKCのアイソフォームの特定にも成功したことから、本研究計画はおおむね順調に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度に得られた結果をもとに、令和5年度にはPKC下流のシグナル伝達経路、および関与する因子の特定を試みる。また、マクロファージ以外の細胞系においても、同じアイソフォームが関与するかを調べることで、これまでに得られた成果の一般性もしくは特異性に関する検討を行う。このことにより、不飽和カルボニル化合物によるフェロトーシス誘導のメカニズムの解明が期待されると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行の影響を受けて、一部消耗品(プラスティック消耗品)の令和4年度内における入手が困難であったことから、次年度使用額が生じた。令和5年度前半には、当該消耗品を入手可能となる見通しであるので、繰越金額は令和5年度前半に使用する予定である。
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