不飽和カルボニル化合物は、草木や油脂類等の有機化合物の不完全燃焼によって容易に発生する環境毒性物質である。代表的な不飽和カルボニル化合物としてはアクロレインやメチルビニルケトンが挙げられる。これらの化合物は高い細胞毒性を有するが、その毒性メカニズムは殆ど分かっていなかった。不飽和カルボニル化合物に曝露されやすい組織や器官としては、呼吸器系が挙げられる。呼吸器系の細胞傷害は、慢性閉塞性肺疾患や喘息、呼吸器系の易感染症など様々な疾病の危険因子であると考えられていることから、不飽和カルボニル化合物の呼吸器系への影響を調べることは、医学的にも意義深いと考えられる。令和5年度には、呼吸器系由来の培養細胞を対象に不飽和カルボニル化合物の毒性メカニズムの検討をおこなった。複数のヒト由来の呼吸器系細胞に不飽和カルボニル化合物を負荷したところ、プロテインキナーゼC(PKC)依存的な細胞死(フェロトーシス)が認められた。アイソフォーム特異的なPKC阻害薬を用いた薬理学的解析により、不飽和カルボニル化合物によって誘導されるフェロトーシスに関与するPKCはconventional PKCであることが強く示唆された。更に、様々な細胞系の不飽和カルボニル化合物の感受性に影響を与えている因子についても検討をおこなった。その結果、細胞内の還元型グルタチオンの量が感受性に関係していることを示唆する結果が得られた。以上の結果から、不飽和カルボニル化合物は細胞内の酸化還元状態に影響を及ぼすことでフェロトーシスを誘導している可能性が示唆された。
|