研究実績の概要 |
これまで、我々は臨床現場で汎用されているプラスチック製医薬品容器に充填された注射薬3種類から重合開始剤1-hydroxycyclohexyl phenyl ketone(1-HCHPK)、Methyl 2-benzoylbenzoate(MBB)および2-methyl-4'-(methylthio)-2-morpholinopropiophenone(MTMP)を検出した。インクや歯科用樹脂に使用されている重合開始剤の中には、内分泌かく乱作用を有するものが報告されており、我々の研究においても上記3種類の重合開始剤ならびに2,2-dimethoxy-2-phenylacetophenone(DMPAP)、2-ethylhexyl 4-(dimethylamino) benzoate(EHDAB)および2-isopropylthioxanthone(2-ITX)を含めた6種類の重合開始剤がヒト乳がん細胞株に対してエストロゲン様作用を示すことを明らかにしている。また、ヒト乳がん細胞株において、エストロゲン受容体(ER)拮抗薬と6種類の重合開始剤を併用してE-screen assayを実施したところ、重合開始剤によるがん細胞増殖効果が抑制された。この結果から、これらの重合開始剤によるエストロゲン様作用は、ERを介したものであることが示唆された。 そこで、本研究では乳がん細胞株MCF-7を移植したヌードマウスを用いて、in vivoにおける1-HCHPK、MBBおよびMTMPの腫瘍内ER-alpha、プロゲステロン受容体(PR)およびHER2の発現量をWestern blotting法を用いて評価した。その結果、1-HCHPKおよびMBBはER-alphaの発現量を有意に増加させた。一方、MTMPはその発現に影響を示さなかった。また、3種類の重合開始剤はPRおよびHER2発現に影響を及ぼさなかった。このことから、1-HCHPKおよびMBBは、少なくともER-alpha受容体発現を増加させ、乳がん細胞を増殖させることが示唆された。
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