研究課題/領域番号 |
21K12272
|
研究機関 | 大阪大谷大学 |
研究代表者 |
見坂 武彦 大阪大谷大学, 薬学部, 准教授 (80397661)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 耐性菌 / 渡り鳥 / 海鳥 / コリスチン / 食物連鎖 |
研究実績の概要 |
海洋生態系において高次捕食者である海鳥は、食物連鎖を通じて消化管内に環境中の抗菌薬耐性菌を濃縮し、渡りを通じて広範囲に拡散させる「耐性菌の輸送者」となる可能性がある。本研究では、超並列DNAシーケンサーを用いたメタゲノム手法と培養法を併用して、北日本の繁殖地における海鳥の腸内、被食者となる栄養段階の異なる生物、ならびに海水の耐性菌・遺伝子を網羅的に調べ、耐性菌の食物連鎖を介した濃縮メカニズムを検証することを目的とする。 令和3年度は、北海道周辺で繁殖する海鳥(オオセグロカモメおよびウミネコ)の糞、餌となる海洋生物、動物プランクトン、生息域周辺の海水を採取した。動物プランクトン、海洋生物、海水については、耐性大腸菌および大腸菌群数が検出限界付近であり、分離した菌株ではコリスチン耐性遺伝子mcrは検出されなかった。一方海鳥については耐性大腸菌および大腸菌群数が多く、周辺の環境よりも顕著に濃度が高かった。分離した耐性大腸菌については、mcr-1株を保有しているものが多かった。最小発育濃度(MIC)を測定し、高い耐性レベルを確認した。また分離した耐性大腸菌については、mcr-1陽性株の大部分が接合伝達能を有することがわかった。 超並列DNAシーケンサーを用いて、16S rRNA遺伝子をもとにした細菌群集組成、真核生物のCOI遺伝子をもとにした餌の組成を網羅的に調べた。属レベルでは細菌群集組成は比較的安定であったが、一部有意に増加、減少する属が見られた。餌の種類は季節変動が大きい傾向にあった。耐性菌数と海鳥の餌の種類との相関性を調べたところ、一部の昆虫が耐性大腸菌数と正の相関を示した。海鳥の腸内のコリスチン耐性菌が増加する要因として、昆虫食が重要であることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定通り、①コリスチン耐性菌の現存量の時期の違い、遺伝子型について知見を得ることができた。②餌の解析を行い、同種の鳥の個体間の違い、年度での違いについて知見を得ることができた。③細菌群集構造の同種の鳥の個体間の違い、年度での違いについて知見を得ることができた。④カモメから分離したコリスチン耐性大腸菌の接合伝達能を確認することができた。 一方で海鳥の腸管内でコリスチン耐性菌は濃縮はされているが、周辺環境の濃度が低いため、定量的に濃縮係数は求めることはできなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
一部の昆虫の種類と耐性菌数が正の相関があることがわかったことから、令和4年度は、耐性菌の増加因子としてより重要な昆虫を採集し、耐性菌の分離を試み、分離された場合は遺伝子型およびMICを決定し、海鳥から分離した株と比較する。また、北海道周辺・東北地方など北日本の繁殖地にて、試料数を増やして①抗菌薬耐性菌の現存量、種類、遺伝子型の解析、②餌の種類の網羅的同定、③糞および魚介類の内容物に含まれる一般細菌の群集構造解析の本調査を行い、季節変化を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
他の研究費を利用して効率的に研究を進めることができたため、次年度使用額が生じた。 次年度は合算することで、解析する試料数を増やして研究を進める予定である。
|