本研究では、①森林火災時に土壌有機層内で生成されるPAHsの濃度・組成は表層と下層でどのように異なるのか?②森林火災後の土壌内でPAHsおよびPAHs誘導体はどのように生成・挙動するのか?③PAHs、PAHs誘導体の生体への取り込みと毒性強度は土壌内の共存成分によってどのように変化するのか?という3つの「問い」を設定し、研究を展開する。 実験室内で加熱した泥炭について水またはアルカリ抽出を施し、その残渣に含まれるPAHsの定量から泥炭火災跡地におけるPAHsの溶脱性を評価した。ガス置換マッフル炉内に窒素ガスを流しながら200~400 ℃で泥炭を加熱することで加熱試料を作製した。水抽出により、加熱試料とpHを調整した水溶液を1:10で混合し、24時間振盪したのちガラス繊維ろ紙でろ過することで、抽出液と抽出残渣に分画した。得られた抽出液の溶存有機炭素濃度、紫外・可視吸収スペクトル、3次元励起蛍光スペクトルを測定した。また、抽出残渣からPAHsを抽出し、GC/MSで定量した。 窒素ガス下で加熱した泥炭の水抽出液中に含まれるDOC濃度は200 ℃で最も高く、加熱温度が上昇に伴ってその値は減少した。UV-Visおよび3D-EEMの結果から、DOC濃度が高い試料ほど、吸光度および蛍光強度が増大する傾向がみられた。水抽出前後において生じる加熱残渣中のPAHs濃度の変化を評価した結果、窒素ガス下において300 ℃で加熱した泥炭から最大で39%のPAHsが溶脱した。アルカリ抽出では最大90%ものPAHsが溶脱したが、pH 4~6ではPAHsの溶脱性は大きく変わらないことが示された。本研究で得られた、加熱条件や抽出溶媒のpHによる溶脱性の違いと抽出液の化学的特性の間には明確な関係性は見られなかった。
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