研究課題/領域番号 |
21K12277
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
新井 良和 宮崎大学, 農学部, 助教 (90614769)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / DNAメチル化 / 環境化学物質 / 神経分化 / 自閉症 |
研究実績の概要 |
自閉スペクトラム症(自閉症)は近年子どもで増加する神経疾患である。自閉症に関連する様々な遺伝子変異が報告されているが、SHANK3遺伝子変異は発症要因の1つである。SHANK3にヘテロ接合型変異をもつ場合、正常タンパク質量の低下が疾患発症に関与する。しかし、同一家族内でも発症の有無や重篤度に個人差があり、何がSHANK3発現量に作用して疾患の発症に影響するのか、その機序は未だ不明である。本研究では妊娠期の母体環境中に存在する有害な化学物質が、環境要因として疾患発症における神経分化異常に関与する、という仮説のもと、SHANK3ヘテロ欠損ヒトiPS細胞の神経分化系を用いて、化学物質による神経分化異常を遺伝子の発現調整機構であるエピジェネティクスをもとに解明する。 令和3年度は、SHANK3ヘテロ欠損ヒトiPS細胞の樹立を進め、CRISPER/Cas9を用いたゲノム編集によって、SHANK3遺伝子を変異させたヒトiPS細胞株の樹立に成功した。また、SHANK3遺伝子のエピジェネティック解析を行い、SHANK3a発現がDNAメチル化制御を受けること、さらにSHANK3a転写開始点上流に細胞種特異的なDNAメチル化可変領域の存在を明らかにした。また、妊娠期の母体・臍帯血清中から検出される化学物質の暴露が、ヒトiPS細胞から分化誘導させた神経幹細胞において、SHANK3aの発現低下を引き起こした。以上より、SHANK3遺伝子の発現調節の一端が明らかとなり、さらに化学物質によるSHANK3遺伝子発現への影響が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度はまず、SHANK3ヘテロ欠損ヒトiPS細胞株の樹立を行った。CRISPER/Cas9を用いたゲノム編集によって、SHANK3の複数あるスプライシングバリアントのうち、SHANK3aのみ、およびすべてのSHANK3バリアントを欠損するヒトiPS細胞株の樹立に成功した。さらに、エピジェネティック解析をもとにSHANK3遺伝子の発現調節機構の解明を進めた。ヒトiPS細胞から分化誘導させた神経幹細胞にDNAメチル化酵素阻害剤である5-aza-dCを暴露した結果、SHANK3aの有意な発現上昇が認められた。このことは、SHANK3a発現がDNAメチル化によって制御されることを示唆する。続いて、SHANK3a上流域のDNAメチル化状況をバイサルファイトシークエンスで解析した結果、細胞種ごとのSHANK3a発現量の違いによってDNAメチル化状況が異なる、細胞種特異的なDNAメチル化可変領域の存在が明らかとなった。さらに、ヒト神経幹細胞を用いて、化学物質によるSHANK3遺伝子発現への影響を検証した。先の研究で明らかとなった、胎児環境中から検出される5種類の化学物質(DEP, コチニン, S-421, Hg, Se)を母体血清中濃度で神経幹細胞に暴露した結果、SHANK3aの有意な発現低下が認められた。このことは、化学物質暴露が神経幹細胞でのSHANK3遺伝子発現を乱すことを示すものである。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度にゲノム編集で作製したSHANK3欠損ヒトiPS細胞について、シングルセルクローニングを行い、ヘテロ接合型変異をもつSHANK3欠損細胞を選別し、以降の実験に用いる。また、得られた複数のヘテロ欠損iPS細胞株について、体外で神経細胞への分化誘導を行い、SHANK3遺伝子発現レベルと神経細胞への分化能の関係性を解析していく。さらに、令和3年度に明らかとなった、SHANK3遺伝子発現を乱す5種類の化学物質をSHANK3ヘテロ欠損iPS細胞に暴露して、遺伝子変異と環境要因による神経細胞分化への影響を検証していく。同時に、エピジェネティクスを介したSHANK3の遺伝子発現制御機構について、プロモーターアッセイやバイサルファイトシークエンスを用いた詳細な解析で明らかにする。以上の解析によって、化学物質による神経分化異常について、SHANK3ヘテロ欠損ヒトiPS細胞でのSHANK3のエピジェネティック制御機構をもとに解明していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会参加等による情報収集のための出張旅費を計上していたが、昨今のコロナ渦の影響で学会等に参加することができず、旅費等を含めた次年度使用額が発生した。
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