令和4年度までに、自閉症との関連性が報告されているSHANK3遺伝子にゲノム編集を行い、SHANK3にヘテロ接合型変異をもつヒトiPS細胞株の樹立に成功した。さらに、DNAメチル化にもとづくSHANK3の発現調節機構の一旦が明らかとなり、SHANK3遺伝子上流域にDNAメチル化可変領域を発見した。最終年度は樹立したSHANK3ヘテロ欠損ヒトiPS細胞株を用いて、妊娠期の母体・臍帯血清中から検出される有害な化学物質が、環境要因として神経細胞分化におよぼす影響を検証した。まずはじめに、SHANK3ヘテロ欠損iPS細胞由来の神経幹細胞を神経細胞へ分化誘導させた。野生型のiPS細胞由来の神経細胞に比べて、SHANK3ヘテロ欠損iPS細胞では、神経繊維の伸長が有意に低下した。このことは、これまでに報告されたSHANK3に変異が認められる自閉症患者由来のヒトiPS細胞の神経分化の結果と一致する。次に、遺伝的要因と環境要因の相互作用による神経細胞分化への影響を検証した。先の研究でエピジェネティック変異原として同定された5種類の化学物質(DEP、コチニン、S-421、Hg、Se)について、母体血清中濃度を参考にSHANK3ヘテロ欠損iPS細胞由来の神経幹細胞に暴露して、続いて神経細胞へ分化誘導させた。解析の結果、対照となる無処置群と比べて、化学物質暴露による神経繊維の有意な伸長低下が認められた。このことは、SHANK3遺伝子変異で生じた神経分化異常が、化学物質暴露に伴う環境要因との相互作用によって助長されることを示唆する。
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