研究課題/領域番号 |
21K12279
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
鈴木 保任 金沢工業大学, バイオ・化学部, 教授 (20262644)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 簡易分析装置 / 高感度分析 / 環境分析 / 比色分析法 / スマートフォン |
研究実績の概要 |
本研究では、環境分析や化学教育の現場などで利用できる、簡易な分析法及び分析装置の開発を目的としている。小型で現場に持ち込んで使用できる分析装置があれば、その場で化学分析の結果を得られる。高性能な装置に性能が劣るとしても、ある程度の情報を得られれば、研究室で精密な分析が必要かどうかをその場で判断できる。また、安価な装置であれば、中学や高校などでは導入が困難な高価な分析装置と、導入は容易であるが性能の劣る簡易分析キットの代用となることも期待できる。 近年、スマートフォンやデジタルカメラなど民生用のデジタル機器の発展が著しく、その場で画像データの取得からデータ処理までを行うことが可能になっている。そこで本研究では、従来から化学分析手法として広く用いられている比色分析法 (測定の目的となる物質と反応して発色する試薬を用い、その色の濃さから物質の濃度を測定する分析法) と、スマートフォン、タブレット端末を組み合わせた簡易で高感度な分析法・装置の開発を目的とした。 今年度は簡易で高感度な比色分析法の例として、富栄養化物質の一つであるリンの定量法を検討した。モリブデンブルー法という手法を用いて発色させたリン溶液をフィルターでろ過して、その色の濃さを発光ダイオード (LED) を光源とする簡易な分析装置で測定することにより、環境基準値 (景勝地においてリンとして0.005 mg/L) レベルまで測定できるようになった。また、今後タブレット端末などと組み合わせて利用することを想定した、簡易な分析機器 (アナログ-デジタル変換器及びLED光源の小型吸光度検出器) を試作した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、今年度は色彩計測ソフトウェアの開発と評価を目的としていたが、実際には先に述べたように2022年度に予定していた固相抽出応用を先行して実施した。これは、色彩計測のためのソフトウェアを開発して評価を行う前に、安定して発色、捕集ができる分析条件を見出すためである。先行研究では行っていなかった条件を中心に検討したところ、現場でより容易にろ過を行えるようになり、その上で再現性の高い試料の捕集が可能となった。 また、分析操作や試料前処理の自動化を目的としているが、そのための機器としてアナログデータをデジタル化するためのアナログ-デジタル変換器と、流れ分析法の検出器としても使用できるLED光源の吸光光度計を試作した。前者については、和文の論文として発表できた。いずれの装置も現時点ではPCと接続して使用できる状態であるが、今後スマートフォン、タブレット端末用のソフトウェアを開発し、制御できるようにする。また、後者についてはリンの定量性能の評価にも利用する予定である。 一方、当初の色彩計測ソフトウェアの開発については、検討段階に留まった。すでに開発済のProcessingという開発言語を用いて制作したソフトウェアの移植を検討していたが、困難であると判断した。そこで予備検討段階ではあるが、近年幅広く用いられているPythonをベースに開発することとした。Android上で開発が可能なPythonの実装では、カメラを制御するためのライブラリーや、他の機器と接続するためのUSBシリアルのライブラリーなどを利用できる。そのため、PC上プログラムを開発して評価し、容易にスマートフォン、タブレット端末で動作させることができる。このソフトウェアの試作・評価が遅れているが、全体としては計画の遂行に向けて進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降は、色彩計測ソフトウェアの開発を先に進める。リンのフィルター濃縮と比色分析を組み合わせた分析の条件をほぼ確立できたことから、この方法に応用して制作したソフトウェアの評価を行う。得られた分析値の評価は、既開発の反射型比色計の結果、及び今年度試作した吸光度検出器と流れ分析法を組み合わせて得られた結果と比較し、特に実際の試料を分析する際に夾雑物がどのような影響を及ぼすかを検討する。試料の前処理あるいは画像解析の際により影響を除去する方法を検討する。
自動分析及び前処理法については、既開発の簡易な流れ分析装置の流路を改良し、試薬あるいは試料溶液を間欠的に流し、省試薬化と分析操作の中断が可能な装置を開発する。現在はローラーを用いて送液するマイクロリングポンプを用いているが、吐出量を精密に制御する必要があることから、電磁弁に逆止弁を組み合わせたソレノイドポンプによる送液も検討する。また、吸光度検出器も含め、スマートフォンによる制御を実現する。まずPythonを用いてPC上で動作するものを開発し、続いてAndroid端末に移植する。
最後に、機器とスマートフォンの接続にはBluetoothを、スマートフォンとデータを管理するサーバーとの通信には無線LANあるいはモバイル通信網を用いる、ワイヤレス計測システムの構築を目指す。Pythonにはこれらの通信に関するライブラリーもPCとAndroidで共通に整備されていることから、PC上での開発ができれば、容易に実現できると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、国内、国外における学会発表に伴う出張がコロナウイルスの影響で中止となったためである。来年度は完全ではないかもしれないが、学会の現地開催が期待されるので、海外出張も含めて旅費として使用する予定である。
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