研究課題/領域番号 |
21K12282
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研究機関 | 小山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
渥美 太郎 小山工業高等専門学校, 物質工学科, 准教授 (40282157)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ステンレス鋼 / クロム酸化物水酸化物 / 六価クロム |
研究実績の概要 |
SUS304(オーステナイト系ステンレス,Fe-18Cr-8Ni),SUS310S(オーステナイト系ステンレス,Fe-25Cr-20Ni),SUS316(オーステナイト系ステンレス,Fe-18Cr-12Ni-2.5Mo),SUS430(フェライト系ステンレス,Fe-18Cr)の表面酸化を400℃,乾燥空気中と湿潤空気中で400時間まで,質量変化の測定とX線光電子分光法によって研究した.ここで,湿潤空気とは日本の夏季の湿度程度の水蒸気を含む空気である.SUS304と SUS310Sステンレス鋼は乾燥空気,湿潤空気中で鉄とクロムを含む表面酸化物被膜が成長した.この表面酸化物被膜は,湿潤空気中,100時間以上で劣化し,質量減少を示した.揮発した気体物質をガラス板上に捕集して分析したところ,六価クロムを含むクロム酸化物水酸化物であった.これまで,1000℃を超える高温や,600℃以上の高水蒸気圧条件で酸化クロム被膜からの六価クロムの発生は指摘されていたが,実際は400℃以上になると,通常生活している湿度程度の水蒸気圧であっても,六価クロムが生成することがわかった.SUS316とSUS430ステンレス鋼の表面には,鉄を含み,クロムを含まない酸化物被膜が形成された。したがって,その被膜から六価クロムを含む酸化物水酸化物が発生することはないが,SUS430は湿潤空気中で酸化が加速され,高温安定性に劣るので,400℃以上での使用はできない.SUS316は,SUS304やSUS310S同様のオーステナイト系ステンレスであるにもかかわらず,高温,湿潤空気中で六価クロムの生成なく使用できるステンレス鋼であることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り,4種類のステンレス鋼についての測定が完了した。加熱することによって酸化クロム表面酸化被膜を生じるステンレス鋼は,400℃以上でその酸化被膜から六価クロムを含むクロム酸化物水酸化物の揮発の危険があることがわかった.酸化鉄被膜を形成するステンレス鋼では六価クロムを生じる心配はないが,湿潤空気中における加速酸化が著しく,400℃以上の高温使用は不可能である。SUS316は,SUS304やSUS310S同様のオーステナイト系ステンレスであるにもかかわらず,高温,湿潤空気中で六価クロムの生成なく使用できるステンレス鋼であることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
SUS316は,SUS304やSUS310S同様のオーステナイト系ステンレスであるにもかかわらず,高温,湿潤空気中で六価クロムの生成なく使用できるステンレス鋼であることがわかった。このことから,ステンレス鋼のクロムとニッケル以外の添加物であるモリブデンが影響していることが予想される。今後は,クロムとニッケル以外の添加物を含むステンレス鋼について調査を行い,400℃以上の高温で,六価クロムを生成することなしに使用できるものを探す。そして,六価クロムを含むクロム酸化物水酸化物生成のメカニズムについて考察する. さらに,ステンレス鋼同様クロムを含み,高温で使用される身近な合金であるにクロム合金についても同様の研究を行い,六価クロム生成の有無を確認する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
定価から割引された物品があったため,わずかな差額が生じた。次年度,物品費として使用予定。
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