種々のステンレス鋼の酸化を400℃,乾燥空気中と湿潤空気(日本の夏季の湿度程度の水蒸気を含む空気)中で400時間まで,質量変化の測定とX線光電子分光法に よって研究した.これまでに,オーステナイト系ステンレスSUS304,SUS310Sでは,400℃で,表面に酸化クロム被膜が形成し,湿潤空気中でその被 膜から六価クロム酸化水酸化物が揮発することがわかった.同じオーステナイト系ステンレスでモリブデンを含むSUS316やフェライト系ステンレスのSUS430の場合,400℃では酸化鉄被膜が生成し,湿潤空気中において六価クロムを含む酸化水酸化物の揮発は見られなかった. 酸化被膜としては酸化クロムの方が安定性に優れている.本年度は比較としてニクロム合金の高温酸化について研究を行った。ニクロム合金の場合,500℃以下の酸化被膜は酸化クロムであり,XPSにおいて被膜中にニッケルは検出されなかった.400℃,500℃における熱重量分析では,酸化クロム被膜の形成による質量増が見られ,湿潤空気中において酸化クロム酸化物水酸化物の揮発に伴う質量減少は見られなかった.このことから,500℃まで耐酸化性を向上させ,かつ六価クロムを生じさせない手段として,二クロムめっきが有効であると言える. 酸化クロム被膜であれば常に400℃,湿潤空気中で六価クロムを含む酸化水酸化物が生成するわけではないことが明らかとなった。XPSの結果から,ステンレスの酸化被膜から400℃といった比較的低い温度で六価クロムが揮発するのは,被膜に含まれるFeイオンによるものと考えられる.ステンレスの酸化被膜からの六価クロムを含む酸化物水酸化物の揮発を軽減させるためには,酸化被膜を形成させる条件を検討する必要があるものと考えられる.
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