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2022 年度 実施状況報告書

きのこ枯死後のセシウム溶出挙動に着目した森林内セシウム循環機構解明研究

研究課題

研究課題/領域番号 21K12284
研究機関国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

研究代表者

香西 直文  国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主席 (80354877)

研究分担者 数納 広哉  法政大学, 情報メディア教育研究センター, 准教授 (50399309)
徳永 紘平  国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 核燃料・バックエンド研究開発部門 人形峠環境技術センター, 研究職 (50814729)
上田 祐生  国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究職 (80806638)
研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワード福島第一原子力発電所事故 / セシウム / きのこ / 土壌 / 溶出
研究実績の概要

福島県で採取し、表面の土壌を洗浄除去したあと乾燥させた野生きのこ3種類(それぞれ子実体1個体)を数mm角に切断し、それぞれの137Cs放射能を測定したのちに、純水による溶出実験を行った。溶出後に液相を新しい純水に取り替える操作を同一固体に対して全部で5回繰り返した。いずれの子実体からも、溶出実験の繰り返し回数が増えるにつれ137Cs溶出量は減少し、5回目の溶出では137Csがほとんど溶け出なかった。純水によって溶出した137Csの割合の合計は約80%であった。昨年度実施した野生しいたけでも同様の結果(約90%溶出)であり、これらの結果は、これら4種類のきのこ子実体では、137Csの大部分が水溶性の形態で蓄積されていたことを示す。純水による溶出実験後に過酸化水素水による溶出実験を2回繰り返した。過酸化水素処理によりいずれの子実体も概ね脱色され、この処理により溶出した137Csは1%未満であった。この結果は、きのこの色素に固着していた137Csはほとんど無いことを示す。純水と過酸化水素による溶出後の子実体残渣に残りの137Csが含まれる。残渣は繊維の集合体であり非晶質である。ただし、顕微鏡下でこの残渣を観察すると、微細な鉱物粒子が多数含まれていた。繊維状物質の137Csを定量するため、顕微鏡下で残渣から鉱物粒子を除去する作業を行っている。子実体残渣に含まれる137Csが繊維状物質と微細鉱物粒子のどちらに保持されているかは、この除去作業後の放射能測定で判明するが、この作業は非常に時間がかかるため、繊維状物質の同定も平行して行っている。昨年度行った野生しいたけの子実体を用いた同様の実験において得た、過酸化水素水処理後の残渣の赤外分光分析と1H 核磁気共鳴分析の結果から、この残渣が脂肪族化合物である可能性が高いこと、Csの結合サイトとなり得る官能基が含まれることがわかった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

野生のきのこ子実体を顕微鏡で観察したところ、子実体を構成する繊維状有機物に極めて微細な鉱物粒子と思われる微粒子が多数付着していた。この微粒子は風によって飛ばされ、子実体に付着したのちに成長過程で子実体内部に入ったと思われる。この微粒子は土壌由来であり、137Csを保持している可能性が考えられるので、繊維状有機物のCs保持性能を正しく評価するためには、この微粒子を除去する必要がある。この除去作業に非常に大きい労力が必要であることがわかった。実験に用いたすべての子実体から微細粒子を除去することは時間的に難しいので、実験前の子実体中137Cs放射能が高いものに限定して調べる等の工夫が必要である。

今後の研究の推進方策

137Cs溶出挙動の傾向を調べるため、現在、さらに野生きのこ1種類について溶出実験を実施しており、この子実体に蓄積されていた137Csの大部分も水溶性であることを示す結果が得られつつある。これら5種類のきのこ子実体は、水を容易に吸収する。この他に福島県で採取した野生きのこ2種類の子実体も用意しており、溶出挙動を検討する。一方、ヨーロッパでCs濃集力が高いことが知られているニセイロガワリに含まれているものと同じ色素を持つと考えられているコツブタケは、特に傘内に大量に含まれる胞子が疎水性である。コツブタケで溶出実験を行うことは難しいと予想されるが、上記5種類のきのことは137Csの溶出挙動が異なる可能性があるので、実験方法を工夫し、13Csの溶出挙動を比較したい。きのこ子実体の過酸化水素処理後の残渣を同定するための分析を引き続き行い、繊維状物質が137Csを固定し得るのか調べる。
コツブタケを採取した茨城県の海岸砂には、福島事故由来の137Csが現在も存在する。この海岸砂には、Csを強固に保持することが知られている雲母等の粘土鉱物がほとんど無いことがわかった。この海岸砂において137Csを固定している構成成分が明らかになれば、土壌中の137Cs保持機構を解明することに役立つと考え、この分析を進めている。

次年度使用額が生じた理由

未使用額が生じたことは、外部の分析装置を使用する場合にできるだけ費用がかからない方法を用いたこと、実験消耗品の再利用をするなどにより費用を削減したこと、実験結果によって対応を変化させる必要があった場合に費用が少ない方法を用いたことが主な理由である。
次年度(最終年度)は、放射光施設を利用した分析のための出張旅費、民間の受託分析を利用した分析にかかる費用、実験消耗品等に使用する。

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公開日: 2023-12-25  

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