研究課題/領域番号 |
21K12286
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
秦 寛夫 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (00792532)
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研究分担者 |
星野 翔麻 東京理科大学, 理学部第一部化学科, 助教 (20783616)
戸野倉 賢一 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (00260034)
藤田 道也 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (20916225)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | イソプレン / クリーギー中間体 / キャビティリングダウン吸収分光法 / 不均一系化学反応 / 大気化学輸送モデル / 微小粒子状物質 / アルケン / 大気化学 |
研究実績の概要 |
本研究プロジェクトでは、イソプレンを代表とするオレフィン化合物のオゾン酸化により生成するクリーギー中間体(CI)と二酸化硫黄(SO2)等の大気汚染物質の反応速度定数を決定し、大気環境への影響を評価することを目的とした実験とシミュレーションを実施している。実験では、オレフィン化合物の代表としてオレイン酸を選択し、オレイン酸薄膜の気液界面/液相内におけるオゾン酸化反応の反応速度定数を、赤外吸収分光法により決定し、不均一反応系の物理化学的挙動を定量的に明らかにした。また、不均一反応系の物理化学的挙動を動的に解く拡散反応モデルを構築し、反応動力学的挙動を明らかにした。現在は、オレイン酸薄膜上にオゾンとSO2を同時に流し、オレイン酸のオゾン酸化反応により生成するCIがSO2によりどの程度消費されるか、検討している。同時にキャビティリングダウン紫外吸収分光法(CRDS)による、イソプレン由来のCIと各種大気汚染物質の反応速度定数を算出するための実験系の構築を行い、試しに過去に報告されているCIとSO2と酢酸(CH3COOH)との反応実験を行い、先行研究よりも高精度な反応速度定数の導出に成功した。次年度には各種酸化合物やSO2との反応速度定数の導出を試みる予定である。同時に量子化学/遷移状態理論に基づき、CRDSで得られる反応速度定数の理論的な算出も行っている。領域大気質モデルCMAQを用いて気相系のイソプレン由来のCI、及びイソプレンとヒドロキシラジカル(OH)により生成するイソプレンヒドロキシヒドロペルオキシド(ISOPOOH)の日本国内における硫酸エアロゾル濃度への影響の評価を実施し、両者共に最大で1%程度硫酸エアロゾル生成に寄与することを明らかにした。現在は、全球大気質モデルGEOS-Chemによるイソプレン由来酸化物の、地球規模での硫酸エアロゾル濃度への影響を評価中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オレイン酸薄膜におけるオゾン酸化反応速度定数を薄膜の厚みに対する関数として算出することに成功した。また、気液界面/液相系におけるCI経由の化学反応、及び気液界面/液相間の物質移動を考慮した反応拡散モデルを数値的に解くプログラムを開発し、一連の反応の動力学的考察を行った。現在、オゾンとSO2をオレイン酸薄膜に同時にフローさせることで、大気化学的に重要な気液界面におけるCIとSO2の化学反応速度の算出を試みるべく実験を進めている。気相中におけるイソプレンのオゾン酸化により生成するCI(ホルムアルデヒドオキサイドCH2OO、メチルビニルケトンオキサイドMVKOO、メタクロレインオキサイドMACROO)とSO2やHCOOH等の有機酸間の化学反応速度定数を、CRDSにより計測するための実験系の構築を完了した。試行実験として先行研究で報告されているMVKOOとSO2、及びMVKOOとCH3COOHの化学反応速度定数を計測した結果、先行研究と同じオーダーかつ高精度な値を得ることに成功した。また、MVKOOとMACROOは4種ずつの幾何異性体を有すことから、どの幾何異性体が化学反応速度定数に寄与するかについて、量子化学/遷移状態理論計算により検討中である。領域大気質モデルによるCIに由来する化学反応の実大気への影響については、前述の「研究実績の概要」に示した通りである。一方で、CI以外にイソプレン由来の有機過酸化ラジカル(ISOPOO)もCIと同様に実大気中の硫酸エアロゾル生成に寄与する可能性が考えられたことから、現在、全球大気質モデルによりISOPOOとSO2の化学反応により生成する硫酸エアロゾルの全球規模での寄与の評価を実施している状況である。
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今後の研究の推進方策 |
オレイン酸薄膜の気液界面における化学反応メカニズムの解明については、薄膜上にオゾンとSO2をフローさせることで、オレイン酸のオゾン酸化により生成するCIのSO2による消費速度の算出を試みる。同時に、前年度に構築した気液界面/液相内における反応拡散モデルに予想されるSO2の化学反応過程を組み込んで計算を実施し、一連の動力学的過程のメカニズムの解明を行う。「予想されるSO2の化学反応過程」については、状況に応じて量子化学/遷移状態理論計算を合わせて実施する。CRDSによる気相系のイソプレン由来CIと各種大気汚染物質の化学反応速度定数の算出については、MVKOOとギ酸(HCOOH)、プロピオン酸(C2H5COOH)との反応速度定数を算出する予定であり、その後は同様の実験をMACROOについても実施する。また、CIの幾何異性体まで考慮した詳細な化学反応メカニズムを検討している例は見当たらなく、量子化学/遷移状態理論計算と合わせて既往研究の結果の再解析を行っていく。大気質モデルによるCI等の硫酸エアロゾルへの影響の評価については前述の通り、領域大気質モデルにより実大気への評価を実施した。一方で、イソプレン由来のCI以外に、イソプレン由来の有機過酸化物(ISOPOOH)や有機過酸化ラジカル(ISOPOO)がCIと同程度以上に気相系、液相系における硫酸エアロゾル生成に寄与することが報告されている。また、一般的には有機過酸化ラジカルは電子状態の観点から一酸化窒素(NO)やヒドロペルオキシラジカル(HO2)との反応性が高いことが知られているが、他の大気汚染物質の酸化性は知られていない。現在は、ISOPOOとSO2の反応速度定数の理論的算出や、その全球レベルでの硫酸エアロゾル生成に関する検討を、全球大気質モデルで実施しており、今後も継続していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
学術誌へのオープンアクセス費を見積もっていたが、昨年度時点で受理されなかったことから次年度使用額が生じた。次年度には英文校閲や、学術誌に受理された場合はそのオープンアクセス費として次年度使用額を利用する予定である。
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