研究課題/領域番号 |
21K12288
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
木村 成伸 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 教授 (90291608)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シアノバクテリア / フラビン酵素 / 電子伝達 / バイオレメディエーション |
研究実績の概要 |
シアノバクテリアは光エネルギーを利用した持続可能なエネルギー生産や物質変換を担う生物資源として注目され,バイオ燃料生産やバイオレメディエーション(生物学的環境修復)への応用を目指した代謝工学的研究が進められている。このような研究においては,シアノバクテリアの光合成(光化学)系で生じる電子をいかに効率的に異種生物由来の代謝系に供給できるかが重要である。本研究ではシアノバクテリア特有の新奇ジフラビン結合ジスルフィド酸化還元酵素(DDOR)の電子伝達機構と生理的役割を解明し,異種生物由来の代謝系への細胞内電子供給体としての有用性を検証することにより,シアノバクテリア応用の可能性の拡大をねらう。初年度である今年度の研究成果の概要は以下の通りである。 1. 大腸菌を宿主としたDDOR遺伝子の大量発現系を用いて,FADが結合していないアポ型とFADが結合しているホロ型のDDORをそれぞれほぼ単一にまで高収量,高純度で精製する方法を検討,改良し,今後の研究に必要な高純度かつ十分量のDDORの供給体制を整えた。 2. 高純度精製したアポ型およびホロ型DDORの定量的アミノ酸組成分析によって決定したモル吸光係数を用いて,アポ型DDORへのFADの結合を定量的に解析した。その結果アポ型DDORへのFADの結合が2段階で起こり,溶液中でも結晶中と同様にDDOR単量体あたり2分子のFADが結合していることを明らかにした。また,アポ型およびホロ型DDORの立体構造解明のための結晶化にも着手した。 3. シアノバクテリア由来のRieske型フェレドキシン遺伝子(NirD)がDDORの生理的電子受容体であるかどうかを検証するために,NirD遺伝子の大腸菌での発現系を構築した。しかしNirD遺伝子産物は大腸菌菌体内で不溶化したため,残念ながら電子受容体としての検証には至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画のうち,DDOR経由以外のシアノバクテリア内新規電子伝達タンパク質の探索による同定ができていないことと,DDORの生理的電子受容体タンパクの可能性の高い遺伝子組換え型NirD遺伝子産物が不溶化し,DDORの電子受容体であることの検証ができていないものの,これらの結果は探索的な基礎研究であることから当初から可能性が予想されていたことである。それ以外については,概ね当初の計画どおり進捗しており,2年目以降の研究を実施する上で必要な高純度かつ大量のDDOR供給系を確立できた。また,電子電達機構の定量的解析に必要なDDORの基本的な物理化学的特性を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2年度目以降は,初年度の成果を踏まえて,当初の計画通り新規電子伝達経路の探索・同定と,DDORの電子伝達機能の解明をを引き続き行う予定である。野生型DDOR分子中の2つのFAD(FAD1,FAD2)の分子内電子伝達における役割の解明を中心に電子伝達機能の解析を進める。具体的には,アポ型DDORに結合させるFAD量の制御,あるいは立体構造をもとにFAD結合部位の一方を破壊した変異体を作製することによって, FAD1のみを結合した1分子FAD結合型DDOR分子種の作製を試みる。1分子FAD結合型DDOR分子種が得られれば,還元型グルタチオンによる還元によって生じる1電子還元型分子種の生成速度や安定性等を解析し,FAD1,FAD2の分子内電子伝達における役割を明らかにする。また,電子伝達機能に重要と考えられるアミノ酸残基を置換した変異体を系統的に作製して電子伝達機能変化を解析し,FAD近傍アミノ酸残基の役割,本酵素の電子伝達機構の特徴と電子伝達系,シアノバクテリア細胞内での生理的役割等について考察する。また,還元型中間体の立体構造解析の可能性を探るため,引き続きアポ型,1分子FAD結合型 DDORも含めて結晶化と立体構造解析を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症対策よる入構制限や,シアノバクテリア培養装置の二酸化炭素濃度センサー修理部品の調達に時間がかかったことなどにより,消耗品の使用量が当初計画よりも少なかった。また,本課題推進に不可欠なDNAシーケンサーのメンテナンス費用のうち,レーザー交換作業,技術料等が他の予算経費により補填されたため,今年度使用額の残額が発生した。旅費については当初予定していたオーストリアで開催された国際学会がオンラインでの参加となったため,外国出張旅費分が未使用となった。 次年度は,遺伝子組換え型変異体酵素の作製が本格化することから,主として遺伝子組換え実験関係の消耗品費,本研究課題遂行に必要な設備,老朽化した物品のメンテナンスや更新費等に使用する予定である。
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