研究課題/領域番号 |
21K12289
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
秦野 賢一 群馬大学, 大学院理工学府, 助教 (20282410)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 植物活力剤 / 食品廃棄物 / 廃糖蜜 / メラノイジン / ファイトレメディエーション / 褐変物質 |
研究実績の概要 |
MLPを60 mg添加した条件(MLP60)でエダマメを実験圃場で栽培すると、豆が3つ入った莢(pod3)の生産数がMLP無添加条件(w/o)と比べて有意に多くなることが確認された。この理由を、エダマメの豆、葉、そして土壌の生化学的指標を測定することによって考察した。 豆と葉のスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性を見ると、殆どのMLP添加条件でw/oと比較して有意な増加が確認できた。このことから、MLPを添加すると、エダマメ全体の抗酸化活性が上昇することが示唆された。導電率に関しては、全条件において豆では高く、葉では低い結果となった。導電率が高いことは、カリウム, リン酸, 硝酸イオン, アミノ酸, 糖などの電解質濃度が高いことを示している。一般に植物は栄養を種子に蓄積するので、葉よりも豆で導電率が高いという結果と矛盾しない。最後に硝酸イオン濃度であるが、葉ではw/oと比較してMLP添加条件で有意な増加が見られた。一方、豆ではMLP添加条件で有意な減少が見られた。おそらくMLP添加条件では、豆ではタンパク質の生合成のため硝酸イオンを多く消費したと考えられる。 土壌の生化学的指標を合わせて総合的に考察すると、MLPを添加することで土壌中の硝酸イオンの根への取り込みが促進され、ミネラルなどの電解質も吸収が促進されることがわかった。一方、葉においてはMLP添加によって硝酸イオンが過剰となり、莢ではMLP添加によって葉より大量に供給される硝酸イオンを利用してタンパク質の生合成が促進されたと考えられる。その結果として,MLPを添加した条件では豊富なタンパク質を使って多くの莢が豆の多いpod3に分化したと推測した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大日本明治精糖株式会社から提供されたサトウキビ由来の廃糖蜜を用いて、MLPは合成吸着樹脂Amberlite XAD-7HPを充填したカラムで従来法により分離・回収された。 エダマメの栽培は、群馬県沼田市下川田町の奥利根自然菜園株式会社から提供された実験用圃場で実施した。圃場には、事前に有機肥料としてサージンEX(24 kg/アール)と苦土ミネラル(24 kg/アール)をすき込んでおいた。エダマメの種子は湯あがり娘(カネコ種苗)を採用した。MLP添加条件は、w/o,MLP 30 mg添加,MLP60,MLP 120 mg添加の4つとした。害虫対策として防虫ネットを用いて、無農薬・有機肥料施肥条件で栽培した。収穫は5月末の播種から85日後に行なった。エダマメは各条件のpod3莢を5つと葉5枚を収穫して、密閉式袋に入れて-80 ℃の冷凍庫で保管した。 試料を約5 gになるように氷冷した乳鉢に入れて超純水を加えて磨り潰した後、0℃,19320 gで20分間遠心処理を行なった。遠心後に上清400 μLを採取し、pH,硝酸イオン濃度,Brix値そして電気伝導度を測定した。測定が終わった上清は凍結乾燥して、SOD Assay Kit-WST(DOJINDO)キットを用いてSODの単位乾燥重量あたりの酵素ユニット数を算出した。同様に、栽培の開始(播種)時,栽培から2週間後,収穫後の畝から採集した土壌試料に対しても東京都土壌診断基準に従って抽出した水溶液から各生化学的指標を測定した。 このように本年度の研究において、各種MLP濃度で栽培して収穫された各種莢の数と植物体の各組織や土壌の生化学的指標の数値を比較検討することによって、MLP60条件では商品価値が高いpod3莢の生産数がw/oと比べて特に多くなることが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
エダマメは群馬県の主要生産物であり(2017年全国2位)、特に沼田市では旨味,甘味,香りの三拍子がそろった高級ブランド枝豆「天狗印枝豆」として有名である。枝豆は大豆の未成熟の豆のことを指すが、過去平均すると大豆の8倍の価格で販売されている。天狗印枝豆として出荷されるpod3莢は商品価値が高いが、豆が1つ入った莢(pod1)や豆が2つ入った莢(pod2)は、農家さんが食べる以外は廃棄してしまうことが多い。その理由として、輸入大豆は国産大豆より価格が3分の1程度であるために、pod1やpod2を成熟させて大豆にして販売しても価格競争に負けてしまうからである。そういった意味で、MLPを土壌に投与することによって食品廃棄物となってしまうpod1やpod2莢の数を極力減らして、商品価値の高いpod3莢が多く生産できるエビデンスを本研究によって示せたことは非常に有意義である。さらにMLPを添加した条件で収穫されたエダマメの硝酸イオン濃度はw/oのそれと比べて有意に低いことがわかっており、日持ちが良いことが予想される。 来年度は、エダマメと同じく群馬県の特産物であるムラサキハナマメを取り扱う予定である。ムラサキハナマメは冷涼な気候を好み、平野部など温暖な地域では花が咲いても結実しないため、現在のところ標高800 m以上の耕地でしか栽培されていない。そのため、国内では主に群馬県,長野県,北海道の高地で栽培されている。本研究では、標高400 m程度の群馬県沼田市下川田町の実験用圃場でも結実するのか、MLPの添加効果にも着目しながら調査を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
各経費で節約を心がけたのが理由である。次年度では余裕のできた予算で必要な物品を購入していく予定である。
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