研究課題/領域番号 |
21K12293
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
桑原 智之 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 教授 (10397854)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 含水酸化物 / 吸着 / 陰イオン |
研究実績の概要 |
多種のイオンが共存する地下水や温泉水からふっ素やほう素,砒素などの有害陰イオンを効率的に除去することを目的に,これらを選択的に吸着する吸着剤を開発する。“三元素系複合含水酸化物(TMHOs:Ternary Mixed Hydrous Oxides)”は非晶質の金属水酸化物を主要成分相としており,水酸基(OH基)を多数含有する。このOH基が有害陰イオンとイオン交換すると考えられ,OH基の増加は吸着容量の増加に寄与する。しかし,TMHOsの結晶性が増すとOH基は層状複水酸化物のように複数の金属元素に配位するため,イオン交換に寄与しなくなる可能性がある。本研究では,TMHOsが非晶質から結晶質へ移行するときにOH基の役割が変化することを利用して,OH基含有量と陰イオン吸着量の関係から結晶性の制御による吸着量向上の手法を明らかにする。 2021年度は,TMHOsの主要な成分相を非晶質水酸化マグネシムからハイドロタルサイトに移行させた試料を対象にOH基の吸着への寄与について検討するため,構成金属元素がSi,Al,Mgでこれらのモル比が1:1:8であるTMHOs(SAM118)およびSiを含有しない0:1:8(SAM018),0:2:8(SAM028),0:3:7(SAM037)のTMHOsを合成した。SAM118を対象にイオン(分子)サイズの小さいフッ化物イオン(F-)と大きいホウ酸(B(OH)3)を対象にバッチ式で吸着試験を実施した結果,F-吸着量はB(OH)3に比べて大きく,またF-吸着時のpH上昇はB(OH)3吸着時に比べて大きいことが示された。現状では,pHの上昇率と吸着量についての因果関係は不明であるが,吸着質の種類によりpH上昇の多寡が生じた結果から吸着の進行にはOH-とのイオン交換が関与していることが示唆され,OH基の安定性が吸着能力に影響を与える可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の目標は,「OH-がイオン交換(吸着)の主体となる陰イオン」と,「OH-以外のイオンとのイオン交換や,その他の吸着(化学吸着や物理吸着)が主体となる陰イオン」を選別することであったが,F-とB(OH)3を対象にした吸着試験までの実施であった。一方,初年度はSAM118のみを合成し吸着試験を実施する予定であったが,SAM018,SAM028,SAM037も追加で合成した。なお,同一組成の試料を合成した場合であっても嵩密度が大きく異なる試料が得られることが確認されたことから,試料の物理性に影響を及ぼす合成条件についても検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
F-とB(OH)3に加え,NO3,NO2,SO4,PO4などの陰イオンを対象に吸着量を測定し,pHの変化から吸着時のOHの影響を評価することで,改めて「OH-がイオン交換(吸着)の主体となる陰イオン」と,「OH-以外のイオンとのイオン交換や,その他の吸着(化学吸着や物理吸着)が主体となる陰イオン」を選別する。また,新しい試料として,水酸化マグネシウム相の結晶化を段階的に進めたSAM118を数種類作成し,結晶相に取り込まれるOH基量の変化と吸着量の関係について明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
吸着試験回数が少なかったことにより学生の分析補助の必要がなく,また元素分析計(ICP-MS)に測定に使用するアルゴンガスの購入も少なくなったため,残額が生じた。次年度は改めてICP-MS分析を実施するため,次年度使用額は学生の分析補助とアルゴンガスの費用として利用する予定である。
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