本研究は、工業的に重要でありながら、内分泌撹乱(環境ホルモン)作用が疑われる、ビスフェノールS(BPS)の迅速な生物分解系を構築するために、BPSを分解できるノニルフェノール(NP)酸化酵素の遺伝子(nmoA)と同酵素の分解で生成する中間体、ハイドロキノン(HQ)、フェノールスルホン酸(PS)及びハイド ロキノンスルホン酸(HQS)に対する分解遺伝子や分解菌を組み合わせて完全分解系を構築することを目的としている。 これまでに、NP酸化酵素の遺伝子nmoAを、HQS分解菌(PS分解も可)Delftia sp. HQS1株に導入し、BPSの分解を検討してきた結果、BPSは期待通り分解されたが、生じたHQが本菌株のPSやHQSの分解を阻害することが明らかとなった。そこで、BPS分解にはHQの除去が重要と考え、高いHQ分解能を有するPseudomonas putida TSN1株を新たに宿主とし、これにnmoAを導入し、BPSの分解とともにHQの除去を試み、これに成功した。その後、残留したPS及びHQSをHQS1株に分解させることにも成功した。これらの結果から、BPSの人工完全分解系の構築が可能なことが実証できた。この分解系の中で、PSやHQSのような芳香族スルホン酸の脱スルホン機構は、学術上非常に興味深いため、HQS1株の全ゲノム配列の解析を実施し、HQS及びPSの初期分解に関わる酵素の遺伝子を同定することに成功した。一方、nmoAの酵素的な特徴づけやBPS及びその誘導体への分解性などを検討する予定であったが、粗酵素液からの酵素精製で失活が起こり、活性型の精製酵素を取得することができなかった。また、昨年度に分離した高濃度BPS資化真菌Exophiala sp. BPS1株は、菌株のNBRCへの登録や特許出願を終え、現在新たな研究シーズとしてそのBPS分解性を検討している。
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