研究課題/領域番号 |
21K12303
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
林 滋生 秋田大学, 理工学研究科, 教授 (20218572)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 天然ゼオライト粉末 / 電気泳動堆積 / 堆積膜 / 耐剥離性 / メタカオリン / カオリン鉱物 / イオン吸着 |
研究実績の概要 |
環境中に投入して使用する新たなスタイルの多孔質吸着材料を作製するため,電気泳動堆積(EPD)法による天然ゼオライト堆積・固定化膜の金属基材上での作製において,従来のメタカオリンに加えて,メタカオリンの原料となる未焼成のカオリン鉱物の添加効果について検討を行った。 秋田県産天然ゼオライト(クリノプチロライト)粉末と,産地が異なる4種類のカオリン原料から作製したメタカオリンおよび原料カオリン粉末を用いてエタノール分散液を作製し,これを用いたEPD法により金属(ステンレス鋼)メッシュ基板上に天然ゼオライト堆積膜を作製,ケイ酸ナトリウムを用いた化学的手法による固定化や,イオン吸着特性の比較を試みた。 その結果,全体の傾向としてメタカオリンよりカオリンの方がEPDの堆積速度が高く,また堆積および固定化後の膜の耐久性についても,多くの場合カオリンの方が上回っていた。電気泳動堆積速度が大きいのは,メタカオリンよりカオリンの方が大きいゼータ電位(電気泳動速度に対応)を示すことが原因と考えられた。また,カオリン原料の方が基板に対する付着性が高いと予想されることも一因と予想された。しかしながら,耐剥離性試験後の膜の在留率はほとんどが80%を下回り,カオリンを用いても目立った向上は見られなかった。また,いずれの試料においてもPb2+イオンに対する十分な吸着特性を示した。 以上,異なるカオリン系添加物を使った天然ゼオライト堆積膜の作製において,メタカオリンだけでなくカオリン鉱物の効果が示されたことは興味深いものである。特に,固定化後の耐剥離性に対するカオリン鉱物の有効性に関しては,従来の予想に反する結果であった。ただし,その効果が,カオリン鉱物のどの様な性質に起因しているかは未解明であるため,今後の更なる検討と,より耐剥離性を高めるための抜本的な手法の改善について考慮していく必要があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度の研究では,電気泳動堆積(EPD)法による天然ゼオライト粉末の金属基材表面への堆積・固定化に及ぼす添加物の影響について,主としてメタカオリンの原料となるカオリン鉱物の添加が及ぼす影響について検討を行った。 結果として,カオリン鉱物の効果が優位に見られた結果が部分的に得られはしたものの,期待したより大きなものではなく,耐剥離性を飛躍的に向上させることはできなかった。現状,膜の耐剥離性という実用的な観点からすると,堆積膜を基準とした最終的な固定化膜の残留割合は,多くてもおおむね80%程度である。(目標値としては,残留率90%以上を考えている。) 現時点においては,メタカオリン,カオリン鉱物のいずれを添加した場合でも,EPD法で堆積した膜を固定化処理する際に,最初に処理溶液に浸漬した時点で比較的多くの部分が剥離するのが大きな問題である。結合剤としての有機バインダー量を増やすとEPD堆積量が減少することが分かっているので,より有効に堆積膜の剥離を抑制するためには別の手段が必要と考えられるが,抜本的な方法を明らかにするまでには至っていない。今後はこの点にも着目しながら研究を続けていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続きの検討事項だが,特に堆積膜の段階での耐剥離性向上を目指すべきと考えている。種々の添加物に対する数値的な耐剥離性のデータに加えて,堆積の様子や剥離の様子を詳細に観察することで,カオリン系添加物の種類や性状(鉱物組成や熱処理の条件,粒度など)が膜の微細構造や強度に及ぼす影響についてより詳細に検討する。加えて,可能ならば耐剥離性向上のための抜本的アイデアを策定し,試験的な検討を実施する。 具体的には,これまでにメタカオリンの作製に用いた4種の産地が異なるカオリン原料から,性状や挙動が大きく異なるニュージーランド,ブラジル産の2種を限定して使用し,所定量(数%~30%程度)を天然ゼオライト懸濁液に加え,EPD法による成膜と試験に加えて,膜の外観や剥離の様子を詳細に観察することにより,添加物の効果を明らかにする。カオリン原料の粒度(粉砕条件)や,表面性状(ゼータ電位)もパラメータとして重要と考えられるため,検討の対象とする。 もしこれらの方針において成果が見られなかった場合には,カオリン鉱物系のみならず,化学的硬化が見込める添加物の添加効果や,セルロース繊維の様な堆積膜の亀裂(剥離)防止に役立つと考えられる繊維状物質の添加など,主として添加物の観点から天然ゼオライトEPD堆積膜の剥離防止に対して有効な手法を模索していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況がやや遅れ,試行錯誤が多くデータ数を充実させるだけの多くの実験を実施するまでに至らなかったこと,また新型コロナウィルス感染症の影響のため,出張を含めての学会発表を実施するに至らず,旅費の使用が全く無かったことが次年度使用が生じた大きな理由の一つである。そのため,一部は物品購入の補填に使ったが余剰(約14万円)が生じることとなった。 次年度使用分は,主に学会発表の出張旅費に充てるほか,物品類の購入,特にEPD法で作製した堆積膜の微細構造を詳細に調査する必要があるため,その観察のための装置や試料作製関連物品の購入費用の補填に充てる予定である。
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