令和5年度は,天然ゼオライトの電気泳動堆積膜の固定化に関し,これまでの経過を踏まえた抜本的な亀裂防止対策として,堆積膜を乾燥させずすぐに固定化処理を行う「未乾燥法」の有効性について検討した。その結果,未乾燥法には固定化時の堆積膜の亀裂・剥離を抑制する効果があること,及び,未乾燥法による剥離抑制効果は,堆積膜量が多いほど顕著であることが分かった。これは,堆積膜量が少ないと急速に乾燥が進んでしまうためである。 また,未乾燥法は,堆積膜の固定化処理に対しては大きな効果を得ることができなかった。固定化処理後の耐剥離性向上に関しては,未乾燥法と処理時のNa2SiO3 aq濃度増加を組み合わせることが有効であることが分かった。ただし,Na2SiO3 aq濃度の増加によりイオン吸着性能は低下し,耐剥離性向上とイオン吸着特性とはトレードオフの関係にあると考えられた。 以上を踏まえ,広域環境浄化に役立つ高効率吸着材料の作製に関する令和3年~令和5年度の研究を総括すると,電気泳動堆積法で作製した天然ゼオライト粉末堆積膜は乾燥収縮により亀裂・剥離が起こりやすいことがまず第1の問題として挙げられ,まずこれを解決しないと基材への固定化処理もまた有効に進まないことが明らかとなった。添加物を使うことで乾燥時の剥離を防ぐことを試み,未焼成のカオリン鉱物の効果が一部見られたものの,耐剥離性を大きく向上させることは困難であった。新たな対策として乾燥プロセスを変更する未乾燥法という手法は一定の効果が得られたものの,試料作製プロセスとしてはやや困難で汎用性が乏しいのが問題である。また,この手法は固定化処理については十分に耐剥離性を向上させることができなかったことが分かり,今後の更なる検討によって,堆積膜の乾燥プロセス,固定化プロセスとも,90%以上の残留率が得られる手法が求められるところである。
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