研究課題/領域番号 |
21K12304
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
伊村 くらら お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (60707107)
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研究分担者 |
伊村 芳郎 東京理科大学, 工学部工業化学科, 准教授 (70756288)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 貴金属 / ナノ結晶 / 界面活性剤 / ゲル / 抽出 / 循環利用 |
研究実績の概要 |
穏和な条件で高効率な化学反応をもたらしうる高機能ナノ触媒の開発は、近年の重要な課題である。一方で、触媒をはじめとするナノ結晶機能を安定に保つには粒子凝集を回避する必要があり、ナノ結晶形態を保持したままでの再利用が理想的である。本研究課題では、貴金属ナノ結晶の触媒利用を視野に入れ、希少資源を含むナノ結晶を再利用する技術の確立を目指している。そこで、ナノ粒子の分散剤として用いられる界面活性剤を用い、界面活性剤ゲルを媒体とした効果的なナノ結晶抽出を試みている。 構造不安定な界面活性剤ゲルをナノ結晶抽出用途に用いるには、ナノ結晶を保持しうるゲル空間の構築が求められる。また、ゲル構造の長期的な安定性も課題となってきた。これまでに、界面活性剤の分子構造ならびにその組成がラメラ面間隔におよぼす影響、界面活性剤ゲルと金属酸化物の複合によってもたらされるゲル構造の経時安定性向上について明らかにしてきた。 令和5年度は、これまでの研究で得られた複合ゲルを媒体に用いた貴金属ナノ結晶の抽出回収を行った。界面活性剤ゲルの膨潤性が良く保たれる組成条件において、抽出したナノ結晶が凝集せずに保持されることを確認した。さらに、ゲルからのナノ結晶再分散を試みたところ、界面活性剤濃度を最低ゲル化濃度付近まで低減させても良好な分散性が保持されることが明らかとなった。これは、ゲル形成の足場として金属酸化物微粒子を導入したことによって生み出された効果であり、ナノ触媒の循環利用法における環境負荷の抑制に成功したと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、界面活性剤と金属酸化物の複合ゲルを媒体としたナノ結晶の抽出回収を達成した。金属酸化物との複合によって界面活性剤ゲルの分子集積構造の経時安定性が高まることはこれまでに明らかにしてきたが、ナノ結晶抽出に用いた際の複合ゲルの効果はそこでの予想を大きく上回るものであった。金属酸化物と複合しない場合にはゲルの収縮を抑えることが難しく、ナノ結晶抽出にはゲル化剤である界面活性剤を高濃度で用いる必要があった。一方で、金属酸化物と複合した系においては、界面活性剤量をいちじるしく低減した条件であってもゲル構造が維持され、ナノ結晶の安定な抽出回収をもたらした。このことは、環境負荷の抑制ならびにナノ触媒の再利用においてもきわめて意義深いものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度では、これまでに得られた知見に基づき、界面活性剤と金属酸化物の複合ゲルを媒体とした貴金属ナノ結晶の抽出回収の高効率化を行う。研究目的であるナノ触媒の循環利用法の確立に向け、抽出回収前後にわたるナノ結晶性能の再現性を評価していく。特に、最低ゲル化濃度近傍といった界面活性剤低濃度領域に焦点をしぼり、より効率的なナノ触媒再利用にむけた抽出回収を行う。また、安定なナノ結晶回収に求められる抽出機構をゲル皮膜の観点からも再精査する。これまで、アルキル鎖長の短い界面活性剤はゲル化能に乏しく十分なゲル形成量を確保できないためゲル抽出用途には不向きであると予想してきたが、実際の複合ゲルを用いた試験では金属ナノ結晶の回収性能は著しく高いことが明らかとなった。これは金属酸化物上に形成される界面活性剤分子膜に依存した挙動であると考え、この分子動態をもとにナノ結晶抽出回収におよぼす影響を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
界面活性剤と金属酸化物の複合ゲルを用いたナノ結晶抽出回収を試みる中で、従来の界面活性剤単独の系では見られなかった複数の重要な知見が得られた。当初の計画では、ゲル化剤としての機能が十分に担保される条件とナノ結晶抽出の最適条件はほぼ一致するものと見込んでいたが、実際にはゲルとしての機能が不良であっても金属酸化物との複合によって劇的にこれを改善できることが分かった。よって、ゲル化剤としては不良であるとみなされ従来は検討してこなかった界面活性剤分子についても再び精査を行うべきと考えている。既に、ゲル化効率の低い界面活性剤であっても、複合ゲルで用いることにより極めて良好なナノ結晶抽出能を発揮することを見出している。令和6年度においても引き続き詳細な検証を行うために、研究遂行の経費を一部次年度使用とした。令和6年度では、これらは分子集積構造評価を行うための消耗品費に充てる予定である。
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