研究課題/領域番号 |
21K12305
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
矢澤 健二郎 信州大学, 学術研究院繊維学系, 助教 (70726596)
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研究分担者 |
後藤 康夫 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (60262698)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | カイコ / シルク / H鎖 / 溶液紡糸 / イオン液体 / 乾湿式紡糸 / 屑繭 / フィブロイン |
研究実績の概要 |
本研究では、未利用絹に含まれるフィブロインH鎖を用いた高強度な再生絹糸を作成することを目的としている。 本年度は、汚れや穴を含んだカイコの屑繭を熱湯処理し、糊成分であるセリシンを除去した精練糸を作成した。その後、ギ酸処理と遠心分離処理を組み合わせることで、沈殿画分に高分子量のH鎖(Heavy chain, 重鎖)成分を移し、上清画分には低分子量のL鎖(Light chain, 軽鎖)とP25(フィブロヘキサマリン)を移行させた。その後、沈殿画分を乾燥させたところ、手触り的には、通常のL鎖やP25を含む精練糸と比較すると、硬い肌触りであったため、高分子量成分が選択的に分離できていると期待された。 ドデシル硫酸ナトリウム ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を利用して、H鎖とL鎖とP25の分離を確認したところ、H鎖が選択的に分離できていることが確認された。乾燥させたH鎖をイオン液体に溶解させて、乾湿式紡糸を行った。延伸比率を変えた4種類ほどの再生絹糸を作成することができた。 作成した糸をフーリエ変換型赤外分光法(FT-IR)、広角X線散乱(WAXS)で構造解析を行い、走査型電子顕微鏡(SEM)で形態観察を、さらに引張り試験で力学物性を評価した。 延伸比を増大させることで糸の強度は向上していることが分かった。天然シルクと同等の強度まで向上していた。結晶構造については、延伸比の増大に伴い、結晶化度の増加と分子配向の向上が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、廃棄対象のカイコの屑繭を再利用し、天然と同等の強度を有する再生絹糸を作成することを目的としている。
これまでの研究で、カイコのシルクフィブロイン由来の再生絹糸を作成する研究は、国内はもちろんのこと欧米を中心に研究が行われていた。しかしながら、溶液紡糸によって得られた再生絹糸は、天然シルクの強度よりも劣っていた。この理由としては、天然シルクの結晶構造を再現することが難しいことに加えて、再生絹糸を構成するシルクフィブロインの分子量が紡糸液を調製する過程でだんだんと低下していくことが主な理由と考えられた。そこで、本研究では、カイコシルクフィブロインが高分子量のH鎖と低分子量のL鎖、P25の3種類から構成されていることに着目した。高分子量成分であるH鎖を分離し、それを紡糸に利用することができれば、天然シルクを超える再生絹糸を作成することが期待される。
本年度は、実際にギ酸処理と遠心分離処理を適用することで、カイコシルクのH鎖を単離し、それをイオン液体で溶解させることで紡糸原液を作成することができた。さらに乾湿式紡糸を適用することで再生絹糸を作ることができた。得られた再生絹糸は、延伸過程の延伸度合いを変化させることで、強度を向上させることができることを見出した。延伸比を増大させると、天然シルクの強度と同等の再生絹糸を作ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、カイコシルクフィブロインから高分子量成分であるH鎖を選択的に分離することができ、さらに乾湿式紡糸を適用することで再生絹糸を作成することができた。延伸過程での延伸比を増大させることで、天然カイコシルクの強度と同等の再生絹糸を作成することができた。
今後の研究方針としては、天然シルクの強度を超えた再生絹糸を作成する手法を検討することである。具体的には、得られた再生絹糸を高湿度条件または加熱条件下で延伸すること、さらに過熱水蒸気発生装置を利用し、高温高圧の水蒸気条件で、再生絹糸を延伸することを検討する。このような2次延伸処理によって、再生絹糸中の分子配向度の向上が期待でき、高強度化に貢献するものと思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
カイコ屑繭由来のシルクフィブロインからのシルクH鎖の単離が予想より短期間で達成されたため、 ギ酸をはじめとした試薬の購入量が減ったため、次年度使用額が生じた。次年度の再生絹糸の作成のための実験試薬の購入に使用する。
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