研究課題/領域番号 |
21K12307
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
木村 哲哉 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (00281080)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Clostridium / バイオリファイナリー / 酪酸 / NADH |
研究実績の概要 |
Clostridium paraputrificumを利用したバイオ水素ガス生産とバイオリファイナリーを考えた場合、水素以外の代謝産物としては、乳酸、酢酸、エタノール、酪酸が主に培地中に生産される。これらのうち、酪酸は薬品や化学製品の原料として利用されることから、バイオリファイナリーによる生産物の対象として有望である。酪酸の生産経路は、2分子のアセチルCoAを原料として、4つのステップを経て1分子のアセトアセチルCoAが生産され、さらに2つの反応を経て合成される。このうち、前者の反応では、2分子のNADHが消費されるが、細胞内のNADHの酸化還元状態がこの反応に関わる遺伝子の発現を制御している可能性が高い。それは、これらの反応を行う酵素遺伝子の上流にNAD+の存在量を検知して遺伝子発現を制御するrex遺伝子が存在しており、NAD+濃度が高いときは、REXタンパク質はリプレッサーとして機能することで、この4ステップの反応を支配する遺伝子の発現を抑止するモデルが推測された。実際に、最初の遺伝子であるチオラーゼ遺伝子(thl)の上流と、残り3つの遺伝子(hbd-crt-bcd)クラスターの上流域には、他の好気性細菌で報告されているREX結合コンセンサスに類似した配列が存在していた。rex遺伝子をPCR法で増幅して、大腸菌用の発現ベクターに連結して発現させ、組換えREXタンパク質を精製した。このREXタンパク質をもちいて、上記のプロモーター領域に結合するか、ゲルシフトアッセイを行ったところ、実際にREX転写因子がプロモーターに結合することが示された。次にrex遺伝子をClosTron法で破壊して表現型を調べた。今回試した培養条件では生育には大きな影響はなかったが、ガス生産がやや増加し、その他の代謝産物の大きな変化は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
遺伝子を破壊することで水素ガス生産が増加した遺伝子を複数同時に破壊するため、条件を変えてClosTronベクターによる形質転換を試みたが、複数遺伝子の破壊株は得られなかった。また、C. josuiのゲノム編集を行う予定であったが、C. paraputrificumに比べてより厳しい嫌気度を必要とすることから、嫌気チャンバー内での実験をするために装置の調整を行ったが、嫌気チャンバーからのガス漏れが生じて以降、ガス漏れ場所を特定できずに実験を進めることができなかった。装置の本格的な修理には予算と時間を要することから、嫌気チャンバーを使用しない別の方法も検討しており、実験の予定にやや遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
C. paraputrificumのゲノム編集技術については、ClosTron法が有効であることは確認できおり、安定的に研究室内で再現性がとれている。一方で、複数遺伝子の破壊には何らかの要因でうまく形質転換体が取得できないことから、他の解決策が必要である。一つの可能性として、他の生物でも利用されているCRISPR-Cas9を使ったゲノム編集も予定しているが、実験条件の検討には実験コストもかかることや、関連する代謝系の遺伝子は多数に渡ることから別のアイデアを考案中である。その中の一つに、ある代謝に関連する遺伝子群は同じ転写因子で発現が制御されていることが予想されるため、その転写因子を改変することで一連の遺伝子の発現全てを同時に制御できなかと考えた。現在、このアイデアにもとづき、酸化還元力を検知するREX転写因子の遺伝子を改変する実験を進めている。今後、REXをはじめ、解糖系を制御するCcpAやキチン分解を制御する転写制御因子などをターゲットとして代謝系全体の制御が可能か検討を行う。C. josuiについては、引き続きゲノム編集条件について条件検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
嫌気性チャンバーからのガス漏れが生じて自分で調整をしたが完全に回復しておらず、本格的な修理には時間と予算が足りないことから、次年度に再度調整と修理可能か検討をするため、予算の繰り越しを行った。また、代謝産物の分析のためには、ガスクロマトグラフィーを稼働させる必要があるが、キャリアガスとして高額なヘリウムを要する。ウクライナ戦争によるロシアの天然ガス開発が停止し、国内のヘリウムガスが入手困難な状況が続いており、思うように入手できなかったため、翌年度に購入を見送っている。 嫌気チャンバーの調整と可能な修理を進めることと、ヘリウムガスの供給が回復したら滞っている分析を進める予定である。
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