エビやカニの外骨格を支える有機成分はキチンと呼ばれる多糖である。このキチンは、自然界においてセルロースに次ぐ産生量を有しており、未来のバイオマス資源として期待されているが、現時点では材料としての応用研究があまり進んでいない。そこで我々は、キチンおよびその誘導体であるキトサンに新しい材料としての可能性を創出するため、「微粒子材料化」、「無機物質とのハイブリッド化」、「薬物担体としての設計戦略の構築」を目的として研究を進めている。 今年度においては、ミリメートルスケールのキトサンビーズの崩壊特性制御の試みにおいて、調製条件についての基礎的知見が多く収集できた。キトサンビーズの調製の際に別種非イオン性多糖であるデンプンをブレンドすることでpH応答性を変化させられることが明らかとなった。デンプンとしては馬鈴薯由来のものととうもろこし由来のものを選び、比較したところ、崩壊特性に差がみられた。これはそれぞれの糊化特性の違いに関連づけられるのではないかと考えている。また、これらのキトサンビーズには蛍光標識を施したタンパク質(アルブミン)を封入し、ビーズからの放出挙動を蛍光分光光度計で経時的に追跡した。デンプンの有無によってタンパク質の放出に変化が観察された。ビーズの表面を種々の顕微鏡でナノスケールからミリスケールまで観察したところ、でンプンブレンドによって表面モルホロジーに影響が出ることが示唆された。この現象とタンパク質の放出との関連性の検討が近々の課題である。 この3年の期間中に得られた成果は、本研究課題の計画時に予定していた領域を遥かに超える物であった。今後の発展的な研究遂行につながる知見が得られたと言えよう。
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