研究課題/領域番号 |
21K12325
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 薫 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任教授 (70183994)
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研究分担者 |
曽我 昌史 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (80773415)
深野 祐也 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (70713535)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 環境保全型農業 / 生態系サービス / 害虫防除 / 有機質肥料 / 雑草管理 / 耕起 / 農薬 / 化学肥料 |
研究実績の概要 |
本研究では、環境保全型農業の一環として行われることが多い三つの農地管理方法(有機質資材の投入・不耕起・減除草剤)に着目し、これら三つの農地管理方法が「地力増進」および「害虫防除」サービスに与える影響とそのメカニズム(非生物的要因および生物群集の変化を介した影響)を明らかにすることを目的とした。2021年度は、28年間継続管理(夏作に飼料用トウモロコシ、冬作にコムギ)をしている有機質肥料連用圃場、化学肥料連用圃場、および無施肥連用圃場を用いて、土壌中および地表徘徊性の節足動物群を網羅的に調査するとともに、土壌の物理化学的性質とリター分解能を調査した。 1. 有機質肥料が土壌の物理化学的性質および節足動物に与える影響 含水率、炭素含有率、窒素含有率、pH、土壌団粒率は成育期間を通じて有機質肥料区で高かった。土壌動物は16亜目4463個体が採集され、中型土壌動物(ササラダニ、コナダニ、トゲダニ、ササラダニ、トビムシ、貧毛類)が化学肥料区に較べ有機質肥料区で増加した。ただし、ササラダニ以外は無施肥区の方が多く観察された。コナダニとトビムシ は化学肥料区で減少した。一方、地表徘徊性節足動物は23科7954個体が採集されたが、アリ以外の節足動物は施肥区間で大きな差異は認められなかった。 2. 有機質肥料がリター分解に及ぼす影響 メッシュサイズの異なる(30μm:小型土壌動物のみ侵入可能263μm:小型および中型土壌動物が侵入可能、5000μm:小型・中型・大型土壌動物の全てが侵入可能)袋にコムギ葉を詰めてリター分解を調査した。その結果、リター分解には主に大型土壌動物と中型土壌動物が関与し、小型土壌動物や土壌微生物の関与は小さかった。リター分解速度は有機質肥料区で最も高くなった。有機質肥料区では他肥料区と較べ、中型土壌動物の寄与が大きく、作期後半では大型動物の寄与も大きいことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、地下生態系を対象としたテーマ1と2、地上生態系を対象としたテーマ3の研究を行う。テーマ1では、有機質肥料が土壌の物理化学的性質や土壌動物および地表徘徊性昆虫に及ぼす影響を調査し、テーマ2では、有機質肥料がリター分解に及ぼす影響を評価する。テーマ3では耕起条件と除草剤が地表徘徊性節足動物を含めた地上節足動物群集に及ぼす影響と害虫防除サービスに与える影響を調査する。2021年度では、このうちテーマ1と2を対象とした研究を計画通りに進め、必要なほぼ全てのデータを得ることができ、研究は大きく進展したと考えられる。ただし、リター分解に関する調査において、小型動物および土壌微生物の関与による肥料区間の差異が検出されなかったことから、土壌微生物のメタゲノム解析は行っていない。 以上より、全体としては、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、テーマ1と2については、土壌の物理化学的性質、土壌動物および地表徘徊性節足動物、リター分解の関係性を明らかにする統計解析を進める。テーマ3については、耕起条件(深耕、普通耕、不耕起)を変えた管理と除草剤の有無を組み合わせた計6種類の管理区をランダムに配置した試験区を利用して、耕起や除草剤が生物群集(土壌動物や飛翔性・地表徘徊性節足動物)やそれらの生物間相互作用、リター分解、土壌の物理化学的性質、さらに、雑草・害虫防除に与える影響を調べる。土壌動物の調査にはツルグレン法を、地表徘徊性節足動物の調査にはピットフォール法を、飛翔性節足動物の調査には背負い式掃除機による吸引法を用いる。雑草調査ではコドラート法を用いた植生調査やドローンを用いた調査を行い、害虫防除サービスの調査ではトウモロコシに対する食害数調査、および幼虫の形に成形したプラスチック粘土を用いた捕食圧調査を行う予定である。リター分解への土壌微生物の関与が明らかになった場合には、土壌微生物のメタゲノム解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に行なったテーマ2の解析により、リター分解には土壌微生物の関与が小さいことが判明したため、土壌の微生物群集のメタゲノム解析を中止した。メタゲノム解析に用いる試薬等の購入を控えたことにより、次年度使用額が生じた。 次年度では、耕起方法と除草剤の有無を組み合わせた管理圃場において、今年度と同様の試験を行なう計画を立てており、メタゲノム解析も予定されている。その際の試薬購入に充てる予定である。
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