研究課題/領域番号 |
21K12332
|
研究機関 | 公益財団法人山階鳥類研究所 |
研究代表者 |
岩見 恭子 公益財団法人山階鳥類研究所, その他部局等, 研究員 (90446576)
|
研究分担者 |
富田 直樹 公益財団法人山階鳥類研究所, その他部局等, 研究員 (90619917)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 希少猛禽類 / 炭素 / 窒素 / 安定同位体比分析 / 餌種 |
研究実績の概要 |
本年度はオジロワシ23個体、オオワシ28個体の羽毛(初列風切羽と体羽)と筋肉に加えて、推定される餌生物26種の筋肉についても安定同位体比を分析し、解析を行った。 北海道に生息するオジロワシの個体数は、北海道の開発が本格化した明治時代以降、生息環境の悪化により大きく減少したが、近年、増加に転じている。その原因として、エゾシカ猟の残滓(食用肉以外の廃棄部位)や漁業者による投棄魚など人為的な餌資源が増加し、若鳥の生存率が高くなったためと考えられているが、オジロワシについて、安定同位体比を用いて利用する餌種の歴史的な変化の有無を推定した結果、炭素と窒素ともに1990年代後半から個体間のばらつきが大きくなり、利用する餌生物種の増加が示唆された。さらに、オジロワシ幼鳥の羽毛の安定同位体比から、育雛期に与えられる餌の栄養段階が低く、餌の起源が多様であることが明らかとなった。幼鳥が給餌される餌生物の地域差は、オジロワシの繁殖地域が1990年代以降、これまでの沿岸部から内陸部に拡大していることと一致していた。オジロワシの成鳥と亜成鳥は、夏季から秋季にかけて、幼鳥に比べると栄養段階の高い餌(カモメ類やウミツバメ類、海水魚など)を利用していることが示唆された。 冬季に北海道へ渡ってくるオオワシについても、1990年代以降に回収された個体のサンプルから、同じような傾向が見られるかどうか解析した結果、餌環境の変化によって、さまざまな餌種を利用していることが確認されたが、冬季はオジロワシ、オオワシともに栄養段階の低いエゾシカやカモ類などの餌を利用していることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
猛禽類医学研究所、環境省釧路湿原野生生物保護センター、北海道内の博物館等の関係機関の協力により、北海道で回収されたワシ類のサンプル及び推定される餌生物のサンプルを集めることが可能となり、研究を進めることができた。今後は種ごとの年齢及び性別間の利用する餌生物の比較を行うために、さらに個体数を増やして解析を行う予定で準備を進めている。猛禽類医学研究所で保管されているオジロワシ、オオワシに加えて、同じくエゾシカ残滓に依存している可能性があるクマタカ、シマフクロウの冷凍鳥体について、必要な個体を選別し、譲渡に関して手続きを行なっている。 歴史的な餌種の変遷を明らかにするために、博物館に保存されている標本からのサンプル採取を行なった。さらに明治期以前の希少猛禽類の羽毛サンプルを収集するため、矢羽など文化財について分析を行えるか検討した。予備調査として、明治期に作られた矢羽に用いられている猛禽類の羽毛の同定を行い、オジロワシ、オオワシのいずれかの羽毛であることを確認した。今後はワシ類をはじめとする希少猛禽類の歴史的な餌の解明を行う予定である。コロナ感染拡大の影響により、予定していたサンプルの分析の一部は行えなかったが、そのほかの調査については順調に行えている。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き、希少猛禽類の冷凍個体を収集するのに加えて、博物館などに保管されている標本からも羽毛のサンプリングを行い、希少猛禽類の個体数が減少する以前を含めた、歴史的な餌種を明らかにしていく。エゾシカの残滓への依存については、1990年代以降のオジロワシ、オオワシのサンプルに加えて、クマタカ、シマフクロウについても同様の分析を行い、人為的な餌の影響を検討する。また、安定同位体比分析については、現在分析を行なっている施設以外の研究施設も利用することで、分析を滞りなく進める。今後は各餌生物の寄与率を推定する予定である。 北海道では、狩猟によってもたらされるエゾシカの残滓を大型の猛禽類が採食し、鉛中毒などが問題となっている。両種におけるエゾシカ残滓の影響を、血液や骨コラーゲンの同位体比を分析することで、個体の長期にわたる餌の寄与率を明らかにする必要がある。
|