研究課題/領域番号 |
21K12377
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
笹岡 正俊 北海道大学, 文学研究院, 教授 (80470110)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 産業造林型移住事業 / 土地紛争 / 不法占拠 / 不法性の脱構築 / スマトラ島 |
研究実績の概要 |
本研究は、インドネシア共和国南スマトラ州における「産業造林型移住事業」によって作られた移住村を研究対象地として、(1) 事業に参加した農家による事業地の「不法占拠」の実態を把握すること、その上で、 (2)参加農家が不法占拠者化する歴史的・構造的要因を、産業造林型移住事業の制度設計、および、産業造林事業地での造林・保育労働の労働環境等に着目して明らかにすること、そして(3)それらを通して明らかになった知見を踏まえて、産業造林事業地で起きている不法占拠問題を解決するための、社会的に公正な方策について政策的含意を導き出すことを目的としている。 今年度は、産業造林型移住事業により造成された移住村である南スマトラ州ムシラワス県B村で行った調査データを整理しなおし、今後の調査項目を再検討した。 そこで得られた知見は以下の点である。 第一に、参加農家の不法占拠者化の一背景要因として、産業造林の植林・保育労働者として働きたくない者が多数存在することが考えられる。この点を十分に検討するためには、参加農家が選択可能な複数の現金獲得手段のうち、どのような基準である手段を選好しているのか、また、そうしたローカルな基準に照らして、産業造林の植林・保育労働がどのような雇用機会として認識されているのか、より踏み込んだ質的データの収集が必要である。 第二に、植林事業地内の住民の不法占拠地は、一部は強制排除の対象となっているが、一部は半ば放置されている。こうした「目こぼし」はなぜ、またどのように行われているのか。また、「目こぼし」を受けた不法占拠地での耕作を重要な生計手段としている農家にとって、「不法耕作」はどのような意味を持っているのか(例えば、耕作地に対する権利が保障されていないことに不安を抱いているかなど)。不法占拠問題を深く理解するためには、これらの点についても踏み込んだ聞き取りが必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナパンデミックを受けて、研究対象地が所在するインドネシア政府が外国人の入国制限を行ったため、当初予定していた調査村選定のための予備調査は実施できなかった。それは、状況をみながら次年度に実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
インドネシアは2022年4月に入り、特別到着ビザ(VOA)の発行を再開するなど外国人の立ち入り制限を徐々に緩和し始めている。調査研究目的のビザの発行はまだのようだが、今後再開されるものと思われる。その動向を丹念に追いつつ、調査ができるようになったら、産業造林型移住事業で90年代に造成された14の村(全村が不可能ならできるだけ多くの村を)訪問し、村長や村の行政スタッフなどに、村の略史、人口動態、村民の主要収入源とその変遷、土地をめぐる紛争の概要などについて聞き取りを行い、本調査の対象を選定する。本調査の対象村を選定したのちは、移住の来歴、生業、産業造林事業地での造林・保育労働従事暦やその労働に対する意識、そして「不法占拠」の実態などについて世帯を対象とした聞き取りを行う。すでに計画がずれ込んでおり、どこまで現地調査を進めることができるかは、コロナをめぐる状況、および、インドネシア政府による外国人入国制限の内容に影響を受けるため、現時点でははっきりと見通せない。今後も、状況を見ながら、柔軟に調査設計を練り直すこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、コロナパンデミックを受けて、研究対象地が所在するインドネシア政府が外国人の入国制限を行ったため、当初予定していた調査が実施できなかったためである。次年度使用額全額を、予備調査および本調査の旅費に充当する予定である。
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