研究課題/領域番号 |
21K12388
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研究機関 | 岩手県立大学 |
研究代表者 |
桑田 但馬 岩手県立大学, 総合政策学部, 教授 (40405931)
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研究分担者 |
鈴木 正貴 岩手県立大学, 総合政策学部, 准教授 (90616062)
生島 和樹 岩手県立大学, 総合政策学部, 准教授 (60772415)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 鮭 / ふ化放流 / 内水面漁業 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、東日本大震災復興の途上にある、岩手漁業における生産主体のあり方を、カナダのブリティッシュ・コロンビア州(BC州)のケースとの国際比較を通して検討することである。今年度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、BC州に行くことができなかったので、岩手の沿岸と内陸での現地調査を中心に行い、補足的に両国(地域)での鮭のふ化・放流事業等に関する研究のサーベイを実施した。ここでは実現した調査の結果を中心に実績の概要を記載しておく。 調査対象とした漁協等(生産主体)は、内水面では雫石川東部漁協、砂鉄川鮭鱒増殖協会(いずれも北上川水系)、安家川漁協、沿岸では宮古漁協(津軽石ふ化場)、宮城では内水面の北上川漁協(大嶺ふ化場)であった。調査から、内水面のふ化放流事業における組織間の「ヒト」、「モノ」、「カネ」などを巡る実態格差が大きいことに加えて、それらの循環システムはごく一部を除き、非常に貧弱であることが明らかになった。ここから、県の現状把握の不十分さも浮かび上がってきた。 宮古漁協(鮭を柱とする定置網漁業も実施)の調査からは、ふ化場のシステム化された作業と同様に、かつての漁協合併の経緯から誕生した、全くの別の組織である津軽石鮭繁殖保護組合からも重要な示唆を得た。すなわち、この保護組合は地域の組合員からなり、「漁」およびその関連作業のみを担う(漁協が「ふ化」作業を担う)。そして、「漁」に伴う現金・現物の収益を地域に還元する。ここでは災害が連続しない限り、多大な恩恵が地域にもたらされることから、「(広狭の)コミュニティ」でふ化放流事業を実施できる余地が見出される。 以上のことから、内水面でのふ化・放流事業の継続性が危ぶまれ、主体間関係の側面を含めて、資源管理(自然産卵の促進を含む)の充実にはほど遠く、事業の問題および課題が根本的に、かつ急ぎ解明されなければならない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「やや遅れている」理由は、主に次の二点である。第一に、岩手中心の国内の現地調査対象として、当初から沿岸と内水面(内陸・河川)の漁協等を予定していたが、内陸で調査を進めていくと、当初の想定以上に、組織間の運営等の違いが大きく、また、組織の運営面での厳しさが浮き彫りになってきた(不漁という沿岸、河川の共通の状況を割り引いても)。つまり、調査、分析により多くの時間を費やした。内水面の漁協等の運営面に関する先行研究がほとんどないことから、やむをえない事態であるものの、事前準備の段階で少しでも意識していれば良かったのではと反省している。 第二に、沿岸での漁協に対する調査で困難を抱え、想定通りの進捗とならなかったことである。というのも、ここ数年、鮭の不漁が問題となっているが、今年度はより深刻になっており、新型コロナの感染拡大もあいまって、関係者へのインタビューさえも時々断わられた。したがって、経営の核心に踏み込めるような情報(データ等)を入手するまでには到底辿り着けない。幸い、岩手沿岸で最大の漁協である宮古漁協は、調査にかなり応じていただいているが、比較分析であれば、当然、他にもいくらかの漁協を訪問したいところであった。 その他にあげれば、研究代表者の2022年4月1日付の異動の準備に多くの時間が割かれ、文献サーベイを中心に作業の停滞があった。この点は、鮭の不漁の影響にどのように向き合うか、という点も含めて、次年度以降、作業のペースアップにより、挽回する必要がある。 なお、新型コロナ感染拡大の影響により、カナダ・BC州でのフィールドワークが実現しなかったことは小さくないダメージであるものの、この点は既に科研費研究計画書に記載していたとおり、想定されていたことであり、計画書にしたがい、第二年次に先送りし、岩手を中心とする国内での活動を優先できたので、「遅れ」の主な理由になっていない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究グループとしては、これまで先行研究がほとんど着目してこなかった、内水面(河川)の漁協等の運営面の実態を少しずつ明らかにしているが、岩手モデルの可能性を検討するうえで、内水面は沿岸と同じくらい重要ではないか、という仮説を持ちつつある。このことは、ある意味で独創的な研究になりうると考えることから、内水面(の漁協等)の意義をはじめ根本的な点から丁寧に研究を進めていく。一見、大震災との関連がないようにみえるが、災害の点では時々被害を受けており、小さくないヒントがあろう。 次に、鮭のふ化放流のそもそもの意義の再確認、ふ化放流の持続可能性の検討を見据えたうえで、資源管理から根本的にアプローチすれば、県担当課・係へのインタビュー調査等により、政策的な位置づけの確認に加えて、条例・制度、財政など複合的な側面からも実態を把握する必要がある。宮古漁協では不漁の影響により、秋田県のある漁協から発眼卵を提供してもらうという連携がみられたが、これが新たな復興スタイルとすれば、逆に、遺伝子の側面からの弊害もありえる。この点まで射程に入れるかを含め検討していきたい。 国内屈指の大河川である北上川のように、流域圏という概念が重要になるのであれば、県を横断することが考えられる。流域圏はBC州のケースにおいて重視されているか否かは定かではないが、ふ化放流事業あるいは資源管理事業の主体をどのように考えればよいのか、という面で検討事項になりうる。 今後の研究の推進方策は以上のとおりであるが、研究の遂行上の課題として、やはり新型コロナの感染拡大の影響があげられる。第二年次においても、今年度(第一年次)のように、カナダ・BC州でのフィールドワークが実施しにくい状況になると、国際比較の点で大きな支障を来すおそれがある。この場合、遠隔装置(ZOOM等)による代替調査を実施できるように、早めに準備を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額(約40万円)が生じた理由は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大のために、カナダのブリティッシュ・コロンビア州でのサケふ化場調査が実現しなかったことによる。このことの可能性に関しては、本科研費研究計画調書においてあらかじめ言及していた。 翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画については、カナダ・BC州での調査の回数あるいは日数を増やすということになる。とはいえ、翌年度(本研究の第二次年度)においても、新型コロナ感染症の感染拡大がみられ、カナダへの渡航ならびに現地滞在が難しくなることが考えられる。この点はあらかじめ記載せざるを得ない。
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