研究課題
本研究は、1940年代インドネシアにおける政治変動と暴力との関係を歴史的に解き明かすことを目的とした。この間4度の政治変動があった(オランダ植民地統治→日本軍政→インドネシア共和国独立→オランダの復帰→インドネシア主権獲得)。従来の研究では、政治変動「前」に暴力が発生した事実に着目した研究は極めて限られている。本研究では1940年代の社会的暴力に関して、当時のインドネシアでの新聞(インドネシア語と華語)、戦後オランダ政府が記録した文書や証言を収集分析することを主眼においた。2023年度は、オランダ王立戦争・ホロコースト・ジェノサイド研究所(NIOD)での資料 調査が実施できた。NIODには第二次世界大戦後に インドネシアから帰国したオランダ人に対して行った大量の聞き取り調査(証言)を文字おこしした記録がある。インドネシア政治史研究では1940 年から1942 年は空白の時期となっている。当時のインドネシア語の新聞にはオランダ領東インド政府の動向に関する記事は極めて少なく、そこからは 歴史を再構築することは不可能である。ところがNIODでの資料を紐解くと、当時の様子を再現できることがわかった。そこには従来のインドネシア政治史研究では言及されることがなかった事実、すなわちオランダは1940年5月以降に植民地統治体制を転換させていた事実が詳細に記録として残されていた。インドネシアはすでに戦時体制になっており、それが政治変動時の暴力を誘発する要因となっていたのである。ここから1940 年代を通して、インドネシアは主体を換えた戦時体制であるという仮説を立てることができると考えるにいたった。戦時体制という分析枠組は1940 年代のインドネシア史を再構築するための重要な手掛かりになる。この点はこれからの研究課題として取り組みたい。
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Journal of Law, Politics and Sociology
巻: 97 ページ: 1-37