研究課題/領域番号 |
21K12399
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研究機関 | 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所 |
研究代表者 |
佐藤 千鶴子 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センター, 主任調査研究員 (40425012)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | マラウイ / トランスポーター / 南アフリカ / 独立移民 |
研究実績の概要 |
本研究は、マラウイ北部から南アフリカ、ジンバブウェ南部から南アフリカという歴史的に文脈の異なる2つの国際移動を取り上げ、南部アフリカの国際移動を1世紀以上にわたり継続させてきた社会的制度の内容を明らかにすることを目的としている。2023年度はマラウイ北部での2回目の現地調査を実施するとともに、ジンバブウェから南アフリカへの移民労働の歴史に関する文献調査を行った。 マラウイ北部ムジンバ県での調査では、元移民や移民を輩出している世帯に加えて、調査地区の長老とトランスポーターと呼ばれるインフォーマルな輸送人に聞き取り調査を行った。長老の話では、調査地区から南アフリカへの移民労働の開始は20世紀初頭に遡り、長老の父親を含む何人かの村の男性が最初だった。長老の時代には鉱山への組織的なリクルートを通じた出稼ぎ労働も行われたが、1990年代以降の第3世代、第4世代の移民労働者はすべてセルフと呼ばれる独立移民である。独立移民の移動を支える重要な仕組みがトランスポーターで、マラウイと南アフリカを1か月に1度の割合で頻繁に行き来し、マラウイから南アフリカへは出稼ぎ労働者を、南アフリカからマラウイへは主にマラウイ移民の家財と親族への贈り物を運ぶ。マラウイ人は南アフリカの白人家庭で家事労働者や庭師として働くことを好み、雇用主から「お下がり」の家具や日用品を譲り受けることが多いため、トランスポーターに対する需要が存在することも明らかになった。 ジンバブウェから南アフリカへの移民労働の歴史については、南アフリカ政府の北部国境における非正規移民の取り締まりが、1950年代までは全く厳格ではなかったこと、1960年代以降、国境警備が厳格化されたが、その目的は経済移民ではなく、南アフリカとジンバブウェ双方のゲリラ兵の取り締まりにあったことなどが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度にマラウイ北部で実施した2回目の現地調査は、調査地区から南アフリカへの移民労働の歴史やトランスポーターというインフォーマルな輸送人の活動と存在意義を知るうえで、きわめて有益なものとなった。 他方、ジンバブウェから南アフリカへの移民労働の歴史的展開については、大きな流れは文献調査を通じて把握することができた。ただし、ジンバブウェ南部の特定の出身地域から南アフリカへの移民労働が歴史的にどのように変化してきたのかを知るためには、さらなる文献調査と現地での聞き取り調査が不可欠であり、今後の進捗は2024年度に計画しているジンバブウェ南部での現地調査でどこまで聞き取り調査ができるか否かにかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、ジンバブウェから南アフリカへの移民労働の歴史に関する文献調査を継続するとともに、ジンバブウェ南部で南アフリカへの移民を多数輩出している農村地域での現地調査を実施する。現地調査は、以前、南アフリカのジョハネスバーグで研究代表者の調査助手を務め、コロナ禍がまだ完全に収束してはいなかった2021年中葉にジンバブウェに帰国した元移民の出身村で行うことを計画しており、元調査助手とは現在もSNSを通じて連絡を取っている。ただし、現地情勢の変化などにより、現地調査が実施できない状況となる可能性も皆無ではないため、現地の報道は注視していく。 また、2024年8月に南アフリカのステレンボシュ大学で開催される国際会議において、マラウイ北部から南アフリカへの移民労働に関して、これまでの研究調査を基にした研究報告を行い、現地の研究者からフィードバックを得ることも計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度までは、別の科研費の研究課題を優先していたため、本研究課題の科研費を繰り越すことになった。 未使用の科研費については、2024年度に予定しているジンバブウェ南部での現地調査と南アフリカで開催される国際会議での研究報告のための渡航費、そして2025年度に実施を計画しているマラウイもしくはジンバブウェでの追加的調査のために使用する予定である。
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