研究課題/領域番号 |
21K12406
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岩田 健治 九州大学, 経済学研究院, 教授 (50261483)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | EU経済統合 / 単一市場 / 単一通貨 / ブレグジット / EU株式市場 / ユーロ / 国際通貨 |
研究実績の概要 |
本研究の最終目的は、(1)2010年代にEU統合が直面した困難の本質を「経済統合論」の理論枠組みを用いて概念的に把握し、(2)①EU単一市場および②単一通貨ユーロの長期的存続を可能とする諸条件や制度の在り方について解明することにある。 以上の研究目的に向け、2021年度は以下の業績リストに結実する研究を実施した。先ず著書・論文として、田中素香・長部重康・久保広正・岩田健治(2022)『現代ヨーロッパ経済 第6版』有斐閣アルマを公刊した。岩田はこの中で「第13章 イギリスとEU経済」【業績1】、「第15章 世界経済の中のユーロ」【業績2】を担当している。また森井裕一編著(2022)『ヨーロッパの政治経済・入門[新版]』有斐閣ブックスの分担執筆として岩田は「第11章 EUの経済政策」を担当している【業績3】。また学会等報告・予定討論として、日本証券経済研究所「ヨーロッパ資本市場研究会」にて6月21日に「資本市場同盟とEU株式市場の諸問題」【業績4】について方向し、日本国際経済学会第80回全国大会(10月24日)にて石田周氏「EU金融商品市場指令(MiFID)の政治経済学-ダークプールの規制上の起源-」への予定討論を行っている。 このうち上記の研究目的(1)については【業績3】1節において問題の所在を最新の経済データと共に示し、B.バラッサの統合5段階論を単一市場と単一通貨の二つのステージに括りなおす予備作業を行った。その上で研究目的(2)①については【業績3】2節および【業績1】においてブレクジットのインパクトを統合論の視点からまとめた。また同(2)②については【業績3】3節においてユーロ制度改革に係る独自の論点を提示し、また【業績2】において国際通貨面から検証を行っている。【業績4/5】では、EU株式市場に焦点を当てて、(2)の諸課題について専門的な考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目的は、(1)2010年代にEU統合が直面した困難の本質を「経済統合論」の理論枠組みを用いて概念的に把握することであり、そのために(2)①EU単一市場および②単一通貨ユーロの長期的存続を可能とする諸条件や制度の在り方について、具体的に解明することにある。 このうち初年度の2021年度においては、2冊の著書として公刊された【業績1-3】において、(1)経済統合論に関する独自の概念整理を行い、(2)①単一市場、②単一通貨ユーロについても、ブレグジットとユーロ制度改革の全体像を示すことができた。加えて【業績4-5】にて、ユーロ危機およびブレグジット後のEU株式市場の最新の課題について検討を行うことができた。その点で、おおむね順調に進展していると評価できる。 研究目的(2)①については「英国のEU離脱に伴う単一市場の変貌にかかわる諸問題」の解明を研究計画全体の課題としているが、2021年度は【業績1】において、ブレクジットの最終枠組みや、それが英国経済やロンドン金融市場にもたらしたインパクトを英国側の視点で明らかにしたばかりでなく、【業績4】において英国離脱後のEU株式市場の側からの諸課題について考察を行うことができた。また研究目的(2)②については「単一通貨ユーロ制度改革のシークエンスと実効性に関する研究」を進める計画となっているが、2021年度は【業績3】でユーロ制度改革の三つの柱(=(a)経済同盟、(b)金融同盟、(c)財政同盟)に係るシーケンス問題として(a)が(c)の前提であることを指摘し、(a)が成果を出すことの重要性について指摘した。また【業績4-5】では、(b)金融同盟の一部である資本市場同盟の現状と課題について株式市場に焦点を当てて議論できた。さらに【業績2】では、制度改革を進めるユーロが対外的に国際通貨としてどのように評価されているかを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目的は、(1)2010年代にEU統合が直面した困難の本質を「経済統合論」の理論枠組みを用いて概念的に把握することであり、そのために(2)①EU単一市場および②単一通貨ユーロの長期的存続を可能とする諸条件や制度の在り方について、具体的に解明することにある。 2022年度は以下のように研究を進める。第1に、EU単一市場に関しては「英国のEU離脱に伴う単一市場の変貌にかかわる諸問題」の解明を研究期間全体の課題としているが、2022年度は、特に「離脱後のロンドン金融市場と大陸EU単一市場との間の競争と相互依存関係」について、外国為替市場を中心に資料やデータの蓄積と整理を図る。特にBIS(国際決済銀行)が4年に1度実施する世界の外国為替市場調査の結果が22年内に公表される予定であり、英国のEU離脱前の2019年に実際された前回調査からの変化について調査し、その意味を明らかにしていきたい。第2に、単一通貨ユーロ関しては、本年度も対外的側面から、上述のBIS調査結果などを用いて、その地位の変化について解明していく。並行して、ユーロ存続の核心と考えられる経済同盟の成果について、ヨーロピアン・セメスター関連資料を引き続き収集し整理する。 またEUによるコロナ禍からの復興基金やそのための共同債発行、さらには気候中立を目指す新しい成長戦略「欧州グリーンディール」など、EUによる新しい政策が、単一市場・単一通貨にもたらす影響について、【業績3】での整理を踏まえて資料やデータの収集と整理に努める。さらに2022年2月末から始まったロシアによるウクライナ侵攻は、本研究に追加的課題を提起しつつある。2022年度は、戦争の軍事的帰趨、対ロシア制裁等の政治対応を見極めながら、それらがEU経済統合やEU単一市場・単一通貨ユーロにどのように影響するのか多面的に注視し、論点を明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、研究打ち合わせと報告会のための東京・関西への出張を4回程度予定していたもののコロナ禍で実施できず、オンラインでの学会予定討論およびオンラインでの研究打ち合わせとなった。また著書等の執筆対象の多くが直近の動きにフォーカスしたものであったため、必要な文献・資料の多くがオンラインで入手でき、「地域的統合とEU経済関連文献と資料」への支出が抑制された。その結果、コロナ禍も相俟って、関連文献・データの整理の謝金の支出も不要となった。 2022年度は、新型コロナ禍も終息に向かうものと考えられるため、これまで実施できなかった研究打ち合わせ等を対面で実施予定である。また文献・資料についても歴史・理論の双方から代表的文献や資料を購入する予定である。
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