研究課題/領域番号 |
21K12413
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
伊藤 雅俊 日本大学, 国際関係学部, 助教 (20791073)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | エスニシティ / 日系人意識 / 残留日本兵 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、残留日本兵を先祖とする日系インドネシア人とはどのような人々であるのかをエスニシティ概念を用い、日系一世から日系三世までの世代別変遷に焦点をあてて解明することにある。 令和3年度は新型コロナウイルス感染症の影響で海外へ渡航できなかったが、令和4年度は2月から3月にかけて約2週間、北スマトラ州のメダンとプマタン・シアンタルで民族誌的フィールドワークを実施することができた。その間に、日系インドネシア人二世を主な研究対象として実施したインタビュー調査からは、多くの情報と知識が得られた。その中からいくつかを以下に列挙する。 ①日系インドネシア人二世は、生粋の日本人である父親・日系一世の生き方や生き様を目の前で見て、そうした父親に育てられたために、自然と日系インドネシア人となった。例えばインドネシアで生まれ育ち、日本語が話せず、日本名を持たず、一度も来日したことのない日系二世がいたとしても彼や彼女は日系インドネシア人なのであり、日系人意識を強く抱いている。②渡日就労の経験があり10年前後、長いと20年前後日本で暮らしたことのある日系二世の多くは、日本人及び日本社会のことを概して肯定的に捉えている。③日系二世の多くは多かれ少なかれ社会生活の中でからかいやいじめといった経験をしている。それでもなお日系であることに誇りを持っている。 そして、以上の事柄に日系インドネシア人に共通する、ないしは各人の歴史的・社会的・文化的背景といった文脈を踏まえて考察を加えた。 さらに、令和4年度に実施した日系二世らとのインタビュー調査及び文献調査によって、日系一世のスマトラ内での移動経路やインドネシア人女性との結婚までの経緯や家族に戦時体験をあまり語らなかった理由などについての新たな事例や情報が付け加えられ、日系一世についての理解がさらに深まった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
現在までの進捗状況を「遅れている」とした理由は、第一に、日系インドネシア人一世にかかわる文献調査に、予想していた以上に時間を費やされているためである。 第二に、これまでのところ日系一世から日系二世のエスニシティの変遷についてはある程度説明できる状況にあるものの、日系三世のエスニシティに関する調査研究は捗っているとは言えないからである。 第三に、エスニシティ概念の文献研究が計画通りに進んでいない。しかし日系インドネシア人一世及び二世のエスニシティを説明する際に、どのようなアプローチの仕方が適しているのかはおおよそ見当がついている。 このように、令和5年度内には当初予定していた三世代にわたるエスニシティの考察を十分に行えない可能性が高い。本年度は日系一世・二世の日系人意識やエスニシティの吟味に集中したい。とはいえ、今後の研究のためにも日系三世の調査研究はできる範囲で進めていく予定でいる。
|
今後の研究の推進方策 |
進捗状況で報告したように、本研究開始前は到達目標を「日系一世から日系三世までのエスニシティの世代別変遷の考究」と定めた。しかし調査研究を進めていく過程で、日系一世と日系二世のエスニシティの吟味までで日系三世のそれを深く掘り下げていくにはもっと時間が必要であることに気づいた。よって、日系三世を研究対象から外してしまうわけではないが、日系一世と二世の研究に重点を置く。 最終年度となる令和5年度は、エスニシティ概念を採用した先行研究を読み漁り、日系インドネシア人一世及び二世のエスニシティと日系人意識を考察する際にどのアプローチが最も適しているか再考する。とくに主観的アプローチにかかわる視点を軸としたい。 民族誌的フィールドワークは引き続き実施する。国内フィールドワークは中部地方を中心に過去2年間よりも多く行う。海外フィールドワークは、変わらず北スマトラ州メダン及びその周辺が主要なフィールドで、夏季休暇中に可能であれば3週間以上実施したい。加えて、ジャカルタにある「残留日本兵資料館」への訪問を考えている。スマトラ地区の日系一世の貴重な諸資料も同資料館に保管されているからである。 令和5年度に行うフィールドワークで得られた情報、文献調査、そしてこれまでの研究成果を基に、研究発表と研究論文というかたちで発表したいと考えている。
|