研究課題
本研究は、善隣友好協力条約が締結された2001年以降の中ロ連携体制の耐久性について、中ロ戦略的パートナーシップの構造を、条約分析と実態分析の双方から多角的に検討して明らかにすることを主目的としている。また、中ロ連携体制が既存の国際秩序への変更を迫るものであるのか/になり得るのか、という点も検討対象である。初年度の研究計画は、2001年以降に中ロ間で締結された政府間協定、共同宣言などを収集・検証し、2年目にかけて執筆する論文の準備をすることであった。応募時から所属機関を変更したため、予定していた北海道大学図書館での締結文書の収集は12-1月の一度しかできなかったが、対象期間初期の文書の収集はできた。次年度も引き続き、締結文書の収集、整理と分析を行なっていく。また、中ロ連携の実態分析では、修正主義勢力としての中ロの主権認識を検討し、ロシアのクリミア併合に対する中国の中立的な姿勢の背景や、台湾問題に関して中国の立場を尊重してきたロシアの立場について説明した。さらに、北東アジアでは従来の歴史認識論争や領土問題に加えて、空域、海域においてロシアと中国共同での探り、挑発行為が目立つようになってきていることを指摘した。北東アジアの国際条件で見ると、中ロは地域の安全保障秩序の安定に貢献しているというよりは、米国とその同盟国との分断をより深くし緊張を高めていることにも言及した。この英語論文は、論文集に収録され、出版が決まっている。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナウィルス感染症の影響で出張回数を増やせなかったため、初年度に計画していた資料収集とその整理・分析作業には、若干遅れが生じている。一方で、実態分析の方では、英語論文を収めた図書の出版が決定しており、順調に研究・成果報告が進んでいるといえる。また、2022年2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が起きたことについて、本研究の視点から、侵攻の背景となる国際要因について新聞、雑誌、研究会での解説を行なってきた。具体的には、クリミア併合後のロシアが東方外交では中東、南アジア、北東アジアにおいて旧ソ連友好国(シリア、アフガニスタン、インド、ベトナム、中国、北朝鮮)との関係回復に力を入れ、経済制裁による孤立ではなくプレゼンスを強化していたことを指摘した。ウクライナ侵攻後、ロシアの対外行動を分析対象としている本研究の意義は高まってきているといえる。
国内の社会状況や、調査を予定していた海外の各地域の情勢をよく考慮して、オンラインで可能な意見交換や研究報告はオンラインで実施し、積極的に国内外での意見交換、成果報告を行う。2年目となる令和4年度は、初年度に引き続き締結文書の収集、分析作業を実施し、中ロ連携体制の制度面の分析を進める。また、研究計画で2年目に行う予定であった、戦後国際秩序に対するロシアの認識と政策の変化に関する分析について、アメリカの同盟ネットワークに対するロシアの外交エリート、研究者、世論の態度という切り口から分析し論文にまとめていく。
新型コロナ感染症の流行が年度内に何度も見られ、特に居住する広島では行動制限や緊急事態宣言が発令されたため、出張費が予定通り使用できなかった。次年度は、資料収集および学会報告のための国内出張費として使用する予定である。
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