研究課題/領域番号 |
21K12437
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研究機関 | 亜細亜大学 |
研究代表者 |
新井 健一郎 亜細亜大学, 都市創造学部, 准教授 (70548354)
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研究分担者 |
林 憲吾 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (60548288)
三村 豊 総合地球環境学研究所, 研究基盤国際センター, 研究員 (90726043)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 基幹統計質問項目の通時的変遷整理 / 基幹統計のGIS上での地図化 / 政治エリート(国会議員)の居住地分布の地図化 / 重要先行研究のグループでの精読 / 統計データとフィールド調査の統合 |
研究実績の概要 |
月1回のオンラインでの研究会合を着実に重ねた。研究会には本研究プロジェクトの研究分担者だけでなくフィールド調査経験のある博士課程レベルの若手研究者など毎回5~8名程度が参加し、ジャカルタ首都圏の現状のフィールド調査結果の報告と、量的データの入力や分析・解釈、先行研究の批判的検討の3面で、深い議論や分析を進めることができた。 統計データの分析は、研究分担者・協力者の三村・小泉が中心となり、当面の対象をインドネシアの基幹統計の一つPODES(村落潜勢力調査)にしぼり、統計・地図データの一部の購入、インドネシア統計庁の専門家を招いたオンライン勉強会、PODESの過去5回分の質問項目の変遷についての整理と一部の和訳、一部年度のデータの地図化までを進めた。また、それとは別に、研究代表である新井が2014-2019年会期の国会議員の居住地を地図化した。当該データは、今後、村落潜勢力調査のデータと地図上で重ねることで、政治エリートの居住地特性を、より全体的な社会的・人口学的データの文脈上で分析することも目指している。 土地利用・物理的な空間の変化に関しては、研究分担者の林憲吾がすでに作成済みの建造環境類型による2010年のジャカルタの土地利用分析を、PODESなどの政府統計の集計単位である行政区分にあわせて再分類した。今後は、可能であればこの類型による分析を、より自動化された機械的な分類作業により複数年度において実施し、経年的な比較を試みる。 理論面では、本研究プロジェクトにとって重要な先行研究の文献を研究会メンバーで批判的に精読している。また、研究エフォートの成果の一部を、以下の論文にて発表した。(新井健一郎2022「ジャカルタにおける知事公選と住宅 ・ 居住環境整備」『都市創造学研究』第6号(亜細亜大学都市創造学研究所))
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書では、3ステップに分けての研究計画を掲げている。第一ステップでは、首都圏全域規模で衛星画像や地図情報の異時点間での比較と、人口統計データの分析により、21世紀の20年間で起こった変化を、物理的環境と住民の動態の両面から析出する。第二ステップでは第一ステップのデータを相互照合することで、人口動態から見た地域的違いが、居住地の物理的特性および近隣の土地利用(商業地や事業地との隣接性)等とどのように相関しているかを分析することになっている。また、検証のため、興味深いパターン が見られたいくつかの地点を訪問し、観察と聞き取り、事例研究を行う。 第1ステップでいうと、人口動態その他社会的変化に関しては、村落潜勢力調査(PODES)の1990年代からの質問項目の整理と和訳、2000年と2011年の二つのPODESデータの地図化作業が順調に進捗ている。結果、多様な項目に関し、10年単位での変化の分析が可能になってきている。物理的な建造環境の分析では、200m2メッシュ単位で分類したジャカルタの建造環境類型による土地利用分析を、PODESなどの政府統計の集計単位である行政区分にあわせて再分類したデータが作成された。これらデータの解釈・分析作業も、地理情報学の専門家とフィールド調査経験の豊富な研究者たちが共同で行い、分析上重要と思われるデータの抽出や仮説形成が順調に進捗している。 以上から、研究プロジェクトの最初の1年で、今後の分析全体の基礎となるデータの地図化とその分析が比較的順調に進捗していると評価している。また、初期段階で発表可能な内容は、論文という形で随時発表することもできている。今後の課題は、対面による集中的な研究会でのデータ検討、衛星画像による土地利用変化の分析、社会的変化と土地利用・物理的環境の変化両方の分析の統合、および現地訪問によるその検証である。
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今後の研究の推進方策 |
統計データと土地利用の変化をGIS上で統合する作業は、データ項目の多さ・充実度から、PODES(村落潜勢力調査)のデータを主、センサスデータは補助的に利用する。PODESに関しては、2000年、2011年、2020年の3時点データを地図化する。これにより、首都圏規模で、過去20年間の町村ごとの経済基盤や人口、ライフスタイルや地区内のインフラ整備状況の変化を可視化させ、都市の成熟という視点から分析する。 土地利用(物理的な空間の建造環境類型による分類)については、建造環境類型の変化をPODESの統計データの示す変化と照合し、相互の関係を分析する。そのため、現在の土地利用分析は2010年ごろの一時点のものだが、今後、可能なら同一類型を使った複数時点データ作成を試みる。加えて、土地権(正式に土地登記されているか否か)のデータとも照合し、土地の権利状況と建造環境や社会・人口学的特性との関連を分析する。 直近では、本年夏に合宿形式で、地図化されたPODSデータ(地図1000枚程度)の質的・量的両側面からの検討・仮説発見作業を合宿形式で集中的に実施する。都市の成熟という視点から重要と判断された地図群はアトラスとして解説付きでの出版を、来年以降に目指す。 また、コロナの水際規制が緩和されたため、現地調査も行う。可視化された地図データが興味深い特徴を見せたいくつかのエリアを選別し、実際に現地訪問をして観察・確認を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度はコロナのため、出張を伴う対面会合が実現できず、そのための出張費や会場手配費の出費がなかった。同様に、インドネシア首都圏への現地訪問を伴う調査も水際対策等のため、実現していない。これらは、いずれも令和4年度に実施予定である。 統計データおよび地図データに関しては一部を購入した。今後、必要に応じて追加購入する。また、統計データの入力や統計 の質問項目の整理・翻訳作業は、大学院博士課程レベルで十分な専門知識と現地滞在経験のある若手研究者に依頼する予定で、一部の作業はすでに進捗中である。これに関しても、今年度、ある程度まとまった成果が出た段階で謝礼を支出する予定である。
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