研究課題/領域番号 |
21K12447
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山田 義裕 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (40200761)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 平和観光 / ピースツーリズム / 拡張現実 / 監視社会 / 偶有性 |
研究実績の概要 |
令和3年度における本研究の実績の概要について、文献調査や共同研究活動に基づく理論研究の側面とフィールドワークや資料収集および分析などの経験的研究の側面の二つに分けて述べる。最後に、研究成果の公開などの社会還元の実績について触れたい。 文献調査に基づく研究については、Jodi DeanによるCommunicative Capitalismに関する一連の研究やそれを発展させる形で展開している伊藤守らの共同研究の成果である『コミュニケーション資本主義と〈コモン〉の探究---ポスト・ヒューマン時代のメディア論』、あるいはDavid LyonやShoshana Zuboffの監視文化や監視社会に関する最新の研究(ライアン 2019、ズボフ 2021等)を踏まえ、コミュニケーションを搾取の対象とする新手の資本主義や新たな監視社会の誕生が私たちの自由をどのように侵害するのかについて平和研究の観点から考察した。フィールドワークについては、新型コロナ感染症の影響により予定していた国内外の調査が全くできず、これらについては翌年度に持ち越しとなった。 ただ研究成果として、広島大学平和センターとの2度にわたる共同研究の成果発表の機会を得ることができたのは収穫であった。広島大学平和センター主催の研究会(広島大学平和センター研究会)における講演はオンライン会議システムによる開催となったが、北海道大学メディア・ツーリズム研究センターと広島大学平和センター共催の平和観光に関する共同ワークショップ(領域横断ワークショップ「平和研究と観光研究のありかを問い直す」)は北海道大学において対面で実施することができた。このワークショップでは、互いの研究の成果を披露し合い、参加者やフロアとのディスカッションを通じて研究を深化させると同時に社会への貢献を行うことができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までの進捗状況についても、理論面とフィールド調査に分けて報告する。 文献調査を踏まえた理論研究については、講演会やワークショップの準備を進める中で、新型コロナウイルス感染症パンデミックの中での世界的な移動制限を踏まえて「偶有性」の自由の概念を鍛え直すことを試みた。さらに、共同研究者との討論を通じてその考察を深めることができた。 フィールドワークについては、新型コロナ感染症の影響により予定していた国内外の調査が困難となった。本研究課題では、これまで広島大学平和研究センターと継続してきた共同研究を活用する計画を立てているが、新型コロナ感染症により広島やその近郊におけるフィールドワークのための出張がかなわなかった。ただ、研究成果の発表および意見交換については、オンライン会議システムによる代替措置でカバーすることができた。また、移動制限がある程度緩和された3月には、広島大学平和研究センターから申請者の所属する北海道大学に2人の研究者を招き、平和観光研究に関するワークショップを開催することができた。海外でのフィールドワークは全くできず、これにより調査面ではやや遅れている状況である。海外出張が難しい局面が続く場合は、当初予定していた済州島オルレの代替として、国内のオルレの調査へと切り替えることも考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイル感染症のパンデミックが2年を越える長期にわたり続くことで、2010年あたりから急速に広まってきたウェブ空間から現実空間へ活動の場を移すという拡張現実的な動きは完全にストップしてしまった。この2年で生じているのは、現実空間からウェブ空間への逆流である。つまり、パンデミックにより観光に代表される移動と交流が厳しく制限されるなかで、ウェブ空間において現実世界を代替するメタバースのような仮想世界を構築する動きが活発化しているのが現状である。理論研究の面では、この社会状況が私たちの「偶有性」の自由にどのように影響を及ぼすのかについて研究を進める予定である。 フィールド調査については、新型コロナ感染症の影響による移動制限が緩和された場合は、国内外で予定していた海外フィールドワークを開始する予定である。海外出張が難しい局面が続く場合は、当初予定していた済州島オルレの代替として、国内のオルレの調査へと切り替えることも考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響による行動制限のため、予定していた出張が実施できず、出張に係る旅費及び関連経費が使用できなかっために次年度使用額が生じた。次年度においては、行動制限の緩和のタイミングを見計らって出張を行うとともに、それが難しい場合はフィールド調査を文献調査へと切り替える予定である。
|