研究課題/領域番号 |
21K12449
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
多田 治 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (80318740)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 観光 / 開発 / 鉄道 / コンテンツ / 冷涼地 / イメージ / 歴史 / 移動 |
研究実績の概要 |
6月に東北の盛岡~繋~仙台~青森~浅虫、7月に北陸の芦原~氷見~糸魚川、9月に越後妻有、11月に会津、青森~函館、1月に只見線~三陸~中山平、3月に山陰の米子~大森、北陸の富山~敦賀~高浜~和倉~金沢を訪問し、視察調査を行った。主に各地の鉄道を使って移動し、博物館や資料館、歴史施設を見学し、関係者に話を聞くなどして、歴史・産業・アート・メディアコンテンツ・地形地質・温泉・食・鉄道遺産などと結びついた観光の歴史と現状について、認識を深めた。毎回、実施後すぐに報告書を作成して、関連づけや比較が可能な知識のストックを蓄積した。いくつか例を挙げると、青森・函館・敦賀では鉄道と海運の接続が、仙台・会津・金沢では近世城下町が、三陸・富山では災害とその復興が、越後妻有や種差海岸ではアートが、浅虫・芦原・中山平・皆生・和倉では温泉が、いずれも地域のまちづくりや観光を方向づけてきた歴史を把握できた。1月には『多田ゼミ同人誌・研究紀要』30号を総集編として刊行し、2022年度分を含む近年の記録を網羅的に収めた。上に挙げた本研究課題の「冷涼地」に加え、愛知・京都・大阪・鎌倉・武蔵野・広島・倉敷・沖縄といった非冷涼地も並行して、各地の観光の歴史と現況を視察しており、そこから本研究課題である冷涼地の観光開発やイメージ形成の特徴も、比較の視点から明確になってきている。 また研究を進める中で、近年その有効性が評価されるアクター・ネットワーク理論の代表的論者、ブリュノ・ラトゥールの著書を読み込む作業を行い、「解読・ラトゥールのアクター・ネットワーク理論」をまとめた。これをふまえ、アクター・ネットワーク理論を活用して独自の観光研究・移動論を展開したジョン・アーリの諸著書を再読する作業を行い、そのモビリティーズに関する多様な知見が、本研究課題にも有効に接続・活用できることを確認し、組み込んで研究する作業を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
冷涼地の観光開発とイメージ形成に関し、対象地を絞りすぎず広く関係づけながら見ていくため、幅広いエリアを訪問視察して各地の実態を把握し、基礎資料を収集・蓄積できていることに、研究の順調な進展を実感している。北海道・東北・甲信越・北陸・山陰といった冷涼地を視察し、エリア横断的につながる多くの知見を積み重ねた。歴史の長い観光地を訪問し、戦前と戦後、両方の観光・リゾートや開発のあり方に目を向けられた。戦前期や近世期の観光・移動・まちづくりに注目するのは、それらがのちの時代の下地を形成し、今日にも色濃く影響を残すためである。他方、各地で漫画・アニメなどのメディアコンテンツが地域の観光まちづくりに活用される実態を見出した(氷見の藤子不二雄A、境港の水木しげる、敦賀の松本零士など)。いずれも固有の歴史をもつ地域が単に歴史を見せるだけでなく、近年の魅力的なコンテンツでより若い層の関心も呼ぶ方向を模索している。従来からの映画・文学作品ゆかりの地も同様で、地域と作品が結びつくことで互いに認知度を高め、象徴的価値を付与しあう事象が各地で見られた。その認識・考察を深められた点も意義深い。また、敦賀は元々海運と鉄道を接続した交通の要衝地の歴史をもつが、北陸新幹線の延伸を控え再び、鉄道というテーマを歴史に重ねている。これは、青函連絡船ゆかりの青森と函館にもみられた。このように、鉄道が厚みある歴史を物語りながら、今日の観光開発にも役割を果たす面を各地で見出せた。日本海沿岸の各地が、北前船の歴史を背景に持ちつつ、交通・温泉・観光地の形成・発展・変容を経てきた様子を具体的に把握できたことも、2022年度の収穫の一つである。 こうした実地的な研究と並行して、ラトゥールのアクター・ネットワーク理論やジョン・アーリのモビリティーズ研究を読み込み知見を整理できたことは意義深く、今後の本研究への実りある適用が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の前半はまず、本研究課題の知見を盛り込んだ成果物の執筆と、国際学会大会での成果報告の準備の作業が中心となる。おおよその内容や方向性はすでに定まり出そろっているので、執筆に集中する時間を充分に確保して取り組む。一方で6月には、東北と北海道への視察調査を再び実施し、各地の観光まちづくりの歴史と現況を把握して、関係づけや比較が可能な知識の蓄積を継続し、いっそう充実させる予定である。研究成果の執筆・報告と現地調査との時間配分や切りかえ、デスクワークとフィールドワークのバランスをうまくとっていくように心がける。 2023年度も後半には、フィールド調査の比重・頻度を上げられるので、現地から得られる情報の密度を高めながら、エリア横断・時代横断的な認識・検討をいっそう充実させていく。フィールド調査は北海道・東北など遠方の地域に目が向き偏りがちになるが、北関東や神奈川、東海などの近隣地域も重要な面を多くもつので、積極的に足を運ぶようにする。 また、近年は『多田ゼミ同人誌・研究紀要』を刊行し、自前の媒体として位置づけ、数か月ごとに研究成果を文章化して、豊富な写真とともに寄稿し共有する生産態勢をととのえている。発表した文章は、ゼミ生や同人誌参加者に読んでもらい、感想・フィードバックを受けとって参考にしてゆく仕組みを作り上げている。書きためた原稿を加筆修正のうえ、最終的には市販の成果物に仕上げていく方向で作業を進めている。成果物の刊行後には、授業やゼミなどでまた使用し、そのフィードバックを受けるなどして、有効に活用する態勢をととのえていく。必要に応じて、学会やシンポジウム等で成果発表を行うことも検討する。
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