本研究は、日本の小規模宿泊業の価値と、その価値を人口減少時代に持続可能とするための新しい資本のあり方のスタンダードを学術的(経営学的)に示すことを目的とした。 研究テーマである小規模宿泊業の労働生産性は問題視され続けているが、生産性を上げるためには、非正規労働に依存するなど小手先の対処的手法で解決せざるを得ず、構造的に改善し得ない点が、本論の問いとなっている。その解決のためには、小規模宿泊業においても資本(過剰債務)と運営(収益)を切り離した経営を目指すことを仮説として、本事業では主として世界の事例の探索と調査・検証を行った。 研究初年度は、国内温泉地におけるM&A事例の調査や、後継者のない旅館の将来の所有の受け皿としてまちづくり会社を組成する温泉地の観察調査等を開始し、所有者候補としての投資家はいるものの、地域全体への裨益がいかになされるのかといった点で地域コミュニティ側のガードが固く、結果として所有・運営一体型再生を繰り返してしまう実態を把握した。研究2年目には、海外の過疎・辺境地に建つエコロッジに着目し、ナショナルジオグラフィック社が認定した小規模ロッジに関する資本と運営主体の調査を実施した結果、その過半数で資本と運営を分離し、資本の多くは慈善財団や企業の社会的投資など、社会的インパクトの文脈で投資されていることを明らかにした。 最終年度には、小資本の民間企業が、M&Aを繰り返し、小規模ロッジ群を経営する企業となる過程で、地域コミュニティの再生やコミュニティからの雇用・教育・伝統文化の維持、および地域環境保全に率先して取り組む海外のエコロッジ企業への調査を実施した。本研究の結論として、日本においても社会的インパクトを目的とした投資の仕組み構築により、サステナブルを志向する新たな市場を獲得できる可能性を見出すことができ、新たな小規模宿泊業の資本のあり方の提言を行った。
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