研究課題/領域番号 |
21K12461
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
崔 載弦 東海大学, 観光学部, 准教授 (10806251)
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研究分担者 |
山川 拓也 流通科学大学, 人間社会学部, 准教授 (30788485)
中尾 公一 兵庫県立大学, 国際商経学部, 准教授 (60807098)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ソーシャルビジネス / 旅行業の社会性 / 便益の地域還元 / 公正旅行 / 住民参加 |
研究実績の概要 |
観光促進が地域振興の主要な戦略的位置づけとして注力され、関連する私的・公的事業者または事業において、観光の社会的な役割(社会性)を謳った活動が進められている。本研究は、その中、観光業に携わる企業、消費者、行政(DMO等)がそれぞれ地域社会や地域住民に対して、どのように具体的な便益をもたらしているかの実相を探究するものである。初年度(2021)においては、コロナ禍の影響を見極めつつ、主に先行研究調査と予備調査に時間を割くこととした。先行する事例として、①韓国において、社会的企業を標榜する旅行事業者が企画・実施する旅行商品である「公正旅行」の実態とこれらの企業が目指す「地域と観光」の志向性に関する調査を行った。また、②日本国内における関連事業と地域社会との具体的な利益享受の実態調査として、公的な観光等施設の運営にNPOや住民が関与することで、住民と行政双方にどのような価値をもたらしたかにつき、定性的な調査分析を行った。 これらの予備調査においては、①住民や地域社会に直接的な便益の共有を可能にするために、ツアー造成の際に、目的地となる地域の事業者や地域住民を、パートナーや協力者として各プロセスの中に組み込んでいることが分かった(公正旅行)。また、②「観光」を含め、地域における事業推進の際には、事業者の役割分担と地域住民の参加による新たな価値発揮への意識づくりが、地域住民との融和と理解を高めるうえで、極めて重要であることが確かめられた。 本年度は、コロナ禍の影響により、聞き取りや同行調査等の現地調査の代わりに、主に従来の研究の再分析や遠隔等の方法を用いて予備調査を行い、その成果を学会の研究論文(査読有)として掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍の影響が想定以上に長引いており、国内外の移動・調査等の研究の実施環境が整えにくかったことが主因である。2021年度(本研究の初年度)から、新型コロナウィルス感染症の影響により、研究調査のための移動や集会等が制限または中止を余儀なくされた。この状況は、本研究の主要な調査対象および方法である、韓国の関係者に対する訪問調査(同行調査を含む)、また国内の地方における関係者への直接聞き取り調査等における研究環境に大きな影響があった。また、本研究の分担研究者を含め、各々の研究者においても、コロナ禍で急変する教育環境やその状況下で図られる教育の充実に追われていた。研究活動同様に教育活動も重要な責務であるため、エフォートの配分が教育等に著しくとられていたことも一因であった。 また、本研究の調査予定であった日本国内のNPO、コミュニティビジネス関係者、観光行政ならびに観光事業者関係者等においても、先を見通せない混乱が続いていたことは想像に難くなかった。同様に、韓国においても、旅行事業者が主要な研究調査協力者となるものであったが、事業等の存続が危ぶまれる状況に陥っていた。国内外の移動制限の理由に加え、調査対象である事業者側にもコロナ禍の影響が続いていたため、不本意ながら当初の想定通りの研究進捗が困難となり、「やや遅れている」の状況となった。
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今後の研究の推進方策 |
予期せず、新型コロナウィルス感染症による活動の制限等の影響が繰り返されており、直ちにこの状況が好転されるとは考えにくい。しかしながら、本研究は旅行事業者を中心とする旅行に関わる企業や事業が、地域社会にいかに具体的な便益を享受しているかの実相を検証するものであるため、現地の関係者に対する聞き取り調査等が不可欠となる。したがって、研究者自身や関係者への安全確保、ならびに地域間の移動に慎重を期し、安全にかかわる社会考慮を鑑みつつ、徐々に予定の研究活動の再開を目指す。しかしながら、海外渡航を含む移動の自粛等の制限は、幾分継続されるものと思われるため、状況に応じて更なる理論的な論拠の確立にも注力する。具体的には、①安全を確保しつつ、日本国内における現地調査を実施する。また、初年度(昨年度)に叶わなかった海外の調査を、状況を見極めながら実施する。②本調査を通じて、旅行業の「社会性」の側面の本質と地域社会との関係における「事業性」確保の現状と課題を究明する。③また、これら、関係者インタビュー等を中心とする実地調査の結果を、学会等における研究発表、また学術論文としての投稿を実施する。④さらには、昨年度から継続している観光業の社会的役割やコミュニティビジネスとの関連性等について、実態検証に加えて理論的論拠の確立にも注力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により、当初予定していた国内外の現地調査が計画通りに行えなかった。そのため、本年度においては、主に、理論の再確認のための関連書籍の購入および遠隔等による予備調査を行っていた。したがって、当該年度の予定研究費が、大幅に次年度に繰り越されることとなった。 次年度(2022年度)は、これまで実施を見合わせていた「現地調査」、また調査のための「打ち合わせ」等の回数および調査期間を当初の予定より増やし、やや遅れていた進捗を早急に取り戻したいと考えている。
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