研究課題/領域番号 |
21K12517
|
研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
伊藤 公雄 京都産業大学, 現代社会学部, 教授 (00159865)
|
研究分担者 |
大束 貢生 佛教大学, 社会学部, 准教授 (20351306)
藤野 敦子 京都産業大学, 現代社会学部, 教授 (50387990)
多賀 太 関西大学, 文学部, 教授 (70284461)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 剥奪感の男性化 / 男性性の危機 / 男性政策 / ジェンダー平等 |
研究実績の概要 |
現代社会における男性性の危機状況を「剥奪感の男性化」という視座から考察を加える作業を、共同研究者とともに、主要にオンラインによる研究会を通じて行った。 特に「剥奪感」を、①経済的剥奪(経済的レベルでの剥奪感情)②社会的剥奪(社会的威信・地位・機会などへの不満)③有機体的剥奪(身体的・精神的健康をめぐる剥奪)④倫理的剥奪(自分の考えている社会関係と現実のズレから生じる剥奪感)⑤精神的剥奪(自分の存在そのものへの否定的感情・虚無的感情など)という5つの剥奪の視点から、現代社会における男性のおかれた状況を分析する作業を進めた。 さらに、こうした剥奪感情の生じる社会的・歴史的背景として男性主導社会として「近代社会」そのものを把握し、1970年代以後拡大した第三次産業革命(情報化・サービス産業化)や第四次産業革命(AIやIoTw軸にした産業構造の変化)が、現在、「男性性の危機」(メンズクライシス)状況を生み出しており、放置すれば理由のわからない男性の暴力事件の増加など社会要理現象を生み出す危険性についても分析を加えた。 また、国際的な比較の対象として、フィリッピンにおける男性のおかれた状況について、フィリピン社会を研究してきた複数の研究者にレクチャーをしてもらい、現代社会における男性の「剥奪感」の多様性についても検討を行った。 以上の研究の成果は、研究分担者を含む著者による共著書「男性危機?国際社会の男性政策に学ぶ」(晃洋書房、2022年)として刊行し、書評紙、経済雑誌等で、高い評価を得た。また、学術論文や学会発表を通じて、研究成果の公表も適宜実施してきた。また、伊藤と多賀は、OECDと笹川平和財団の共催による国際シンポジウム「『男らしさ』とは」(2022年7月14日、於・笹川平和財団)のパネリストとして研究成果を踏まえた報告を行ったことも付記しておきたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は男性の剥奪感についてのオンラインによるアンケート調査を実施する予定であったが、コロナ禍もあり、対面でのアンケート設計の体制が十分にとれず、調査の実施を延期せざるをえなかった。また、アンケート実施に先立ち、男性性研究のさらなる深化、特に、「剥奪感の男性化」という本研究にとっての理論的整理の必要性が生じ、本年度は、基本的にアンケート調査の前提となる理論的な整理に力を注ぐことにした。その点で、研究の進捗状況はやや遅れていると判断した。 一方で、本年度の研究を通じて、男性性研究をさらに深化させることができた。特に、剥奪感の5つの要素(①経済的剥奪②社会的剥奪③有機体的剥奪④倫理的剥奪⑤精神的剥奪)の析出など、次年度のオンライン調査に向けて、必須な視点を整理できたことの意義は大きい。本年度の男性性研究の一層の深化・理論的整理と剥奪感をめぐる理論的検討により、次年度におけるオンラインによるアンケート調査の基本的な視座を確立することができた。 今後、本年度の研究の成果を踏まえ、オライン調査の実施、さらにアンケートの結果の分析に進みたい。また、男性性研究の更なる深化とともに、男性対象のジェンダー平等政策の日本における可能性について、さらに検討を進めたい。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度までに実施した、男性性研究の深化、さらに本研究の中心的な課題である「剥奪感の男性化」の理論的整理を踏まえ、慎重にアンケートを設計し、オンラインによる意識調査を実施する予定である。年齢別・地域別に一定数を配分した男性サンプルとともに、一定数の女性のサンプルも比較対象として、調査会社への委託により調査を行う。 アンケート調査の結果をもとに、現代日本社会における男性のおかれた状況について分析を行う。特に、本年度析出した男性をめぐる剥奪感の5つの視点(①経済的剥奪②社会的剥奪③有機体的剥奪④倫理的剥奪⑤精神的剥奪)から、男性が抱いている剥奪感の多様性・多元性について考察を加えていきたい。 また、これまでの男性性研究の理論的成果を、アンケート調査と重ね合わせ検討するなかで、今後、日本社会で顕在化するであろう男性をとりまく諸課題を洗い出したい。その上で、ジェンダー平等の視座から、研究成果を書籍や論文、学会発表等で公表していく。また、研究成果を踏まえ、現代日本社会における男性対象の政策課題について整理し、政策提言としてまとめていきたいと思う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、オンラインによるアンケート調査実施の予定であったが、コロナ禍のため対面でのアンケート設計の研究会を開催することができなかった。また、アンケート調査に先立って、男性性研究の理論的整理や本研究の課題である「剥奪感の男性化」の位置づけなどについて、オンライン研究会を通じて一層の整理が必要であるとの認識から、本年度の研究の主軸を主要に理論的な視座の確定に絞ることにした。 次年度は、本年度の男性性や剥奪感の男性化をめぐる理論的な整理をふまえ、地域や世代に配慮しつつ男性を対象にしたオンラインによるアンケート調査を実施するとともに、比較対象として一定数の女性を対象にしたアンケート調査を行う。 アンケート調査の結果を分析し、成果は著書や論文、学会発表などで公表するとともに、研究成果を踏まえた男性対象のジェンダー平等政策の可能性について、政策提言などにつなげていく予定である。
|