X線画像検出器の広視野、高感度、高空間分解能化のために、ペロブスカイト半導体による放射線検出器の開発を行った。令和3年度はペロブスカイト膜の厚膜化と、電荷注入阻止層の成膜に取り組んだ。令和4年度も厚膜化と暗電流低減に取り組むと共に、検出器特性の測定環境を整備した。令和5年度は厚さ1mmの半導体膜を用いて検出器を作製し、X線特性評価と、Sb2S3膜の電荷注入阻止効果の確認を行った。また成膜前のペロブスカイト溶液にアニリンを添加し、膜質の改善を図った。 【半導体膜の厚膜化】ペロブスカイト溶液を基板上に滴下し、晶析による厚膜化を目指したが膜厚200μm程度が均一な多結晶膜が成膜できる限界となった。厚膜化のために微結晶が析出したコロイド溶液を作製し、これを基板に滴下焼成することで、膜厚1mmの均一な多結晶膜を得ることができた。 【半導体膜のX線検出特性評価】膜厚1mm、受光面の形状8mmΦ、下部電極ITO、上部電極カーボンとする検出器を作製し、X線検出特性を評価した。管電圧70kVのX線に対し、印加バイアス電圧-60Vの感度858μC/(Gycm2)、+60Vの感度17μC/(Gycm2)を得た。印加バイアスの極性によって感度が大きく違うのは負バイアス印加時にITO電極からの電荷注入であると推測した。 【電荷注入阻止層の評価】空間分解能と電荷注入阻止を両立するため、高抵抗材料であるSb2S3膜を選定し効果を検証した。0.5μm厚のSb2S3をITO基板上に電子ビーム蒸着装置で成膜し、この上にペロブスカイト膜を成膜し、X線検出特性を評価した。-60V印加時の感度が144μC/(Gycm2)に低下し、電荷注入阻止層として働くことを確認した。 【膜質の改善】上記ペロブスカイト溶液の作成時にアニリンを添加し、検出器を作製した。アニリン添加によってX線感度が約2倍向上することを確認した。
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