研究課題/領域番号 |
21K12528
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研究機関 | 群馬県立産業技術センター |
研究代表者 |
渡部 貴志 群馬県立産業技術センター, その他部局等, 独立研究員 (60727832)
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研究分担者 |
柳澤 昌臣 群馬県立産業技術センター, その他部局等, 技師 (30868930)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 清酒酵母 / イオンビーム / ウラシル要求性 / 生菌率 |
研究実績の概要 |
きょうかい清酒酵母10株を用いて、我々が検討してきたイオンビーム照射の試料調製方法を調べたところ、株間で生菌率に差が生じてしまった。この要因を調べるため、培地の再検討を行った。YM培地に1Mのソルビトールを加えたYMS培地でK701の生菌率が上昇したので、さらに栄養リッチなYPD培地にソルビトールを加えたYPDS培地を用い、90%以上の生菌率が得られた経緯がある。そこで、YPD培地やYPD培地のグルコース量を変えて検討したところ、各清酒酵母の生菌率は10%以下まで大幅に下がった。これらのことから、YPDS培地のグルコースを枯渇するまで培養することが、安定した生菌率が得られると考えた。そこで、培養時間を4時間長くしたところ生菌率が低めであったK1601やK1701も90%の高くて安定した生菌率が得られるようになった。また、試料調製からどの程度まで長く生菌率が維持できるか、K901を用いて調べたところ、少なくとも2か月間の冷蔵保存で生菌率が下がることがなかった。以上のことから、我々が検討した方法は少なくとも10株の清酒酵母で普遍的有効性が確認できた。 続いて、ウラシル要求性を指標にした目的遺伝子変異率と生菌率の評価については、K701とK901の間では大きな影響は無く、200 Gyから300 Gyの付近が生菌率が80%以上で高く、ウラシル要求性の出現が多かったのに対し、350 Gy から400 Gy付近で生菌率が10%以下まで急激に下がった。これらのことから、選択培地の選択性には株間の影響は認められるものの、イオンビーム照射で起きる変異と生菌率には大きな差がないと考えられた。 最後に、バイオフォトレコーダーを増設してウラシル要求性株の増殖性を調べていたが、いずれのウラシル要求性株の最終的な増殖量は、親株より大きく下がっていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の計画していた内容は、全て検討することができたため、おおむね順調であると思われる。一方で、当初の予定より前倒しで行っていたウラシル要求性株の増殖性の評価については、いずれの株も最終的な増殖量が親株よりも大きく下がっていた。この要因は、培養で用いていたYM培地に含まれるウラシルが少なく、ウラシル要求性株の増殖量の抑制要因となっていたことが考えられる。本来の目的では、ウラシル要求性以外の変異による増殖量の影響を評価することであったため、YM培地にウラシルを加えて再度増殖速度の評価を行う必要があると考えた。このことから、当初の計画よりも進展しているとまでは考えられず、対策も考えられていることから、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、K701とK901の2株を用いてイオンビーム育種技術の特性解析を行う予定であった。しかしながら、今年度の成果から、両株にはイオンビーム照射で起きる変異と生菌率には大きな差がないと考えられた。これらのことから、評価する対象株は、K701に絞っても問題ないと推測されるため、実験量が半分にすませることができる。 一方で、これまでのイオンビーム照射では、炭素イオンのみに核種を絞って行っていたが、埼玉県では鉄イオンを使っており、新たに福井県がプロトンを使っていることが分かった。プロトンと鉄イオンでは原子量が59倍も異なるため、塩基配列に与える影響も大きくことなることが推測される。また、埼玉県は理化学研究所の、福井県は若狭湾エネルギー研究センターの、そして我々は量子科学研究開発機構の照射施設を利用しており、照射試料の調製方法が異なっている。 施設間の差異を評価するのは難しいが、量子科学研究開発機構で照射できるイオンの核種間での差異を評価することはできると予想された。そこで、来年度は従来の炭素イオンに加え、ヘリウムイオンやアルゴンイオンなどを利用し、K701のウラシル要求性株を取得する。得られたウラシル要求性株の増殖速度の分布や遺伝子変異の特徴などを評価することによって、本研究の目的であるイオンビーム育種技術の遺伝子変異点の特性解析をより詳細に調べることができると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で、予定していた出張の学会が中止になったため、旅費と参加費(その他の経費)に次年度使用額が生じてしまった。一方で、最終年度は多額の費用が掛かるゲノム解析を予定しており、これを次年度使用額を利用して前倒しで行うことによって、解析できる株数がより多くできるようになる。ゲノム解析できる株数が多くなれば、より変異点の特性評価の信頼性が高まることから、研究をより進展させるために有効活用できると考えている。
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