| 研究課題/領域番号 |
21K12541
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| 研究機関 | 千葉大学 |
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研究代表者 |
久保 光徳 千葉大学, デザイン・リサーチ・インスティテュート, 教授 (60214996)
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| 研究分担者 |
植田 憲 千葉大学, デザイン・リサーチ・インスティテュート, 教授 (40344965)
桃井 宏和 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (50510153)
田内 隆利 千葉大学, デザイン・リサーチ・インスティテュート, 准教授 (70236173)
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| 研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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| キーワード | 意匠形態学 / 人工物規範 / 歴史的造形物 / 生きるためのデザイン |
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| 研究実績の概要 |
本年度主に扱った形態は「箕，木摺臼」，社寺彫刻は川崎市多摩区の子之神社の「龍」，「九品仏の印相」，その他の形態としては日本初の飛行機設計図「阿鼻機流大鳥秘術」の５形態である。それぞれの形態に対して実物および図面からの三次元形状測定および三次元モデルの再構成を実施し，構造力学，民俗学，考古学，文化人類学をベースとする意匠形態学の視点で形態評価と特徴形態，特徴量の抽出を試み，それぞれの形態から読み取ることができる造形のアイデア，工夫，制作者による作風の同定を目指した。これにより，それぞれの歴史的造形物の制作者の造形における意図や心の動き，そしてその制作物とかかわりを持った生活者の動き，感情までにも思いを巡らし，「生きるためのデザイン」への普遍的なヒントを探った。
「箕」に関しては，東京文化財研究所に所蔵されている日本各地およびアジア圏の箕を中心に，14個の箕の三次元形態計測とCADモデル化を実施し，それぞれの箕形態を支配する特徴曲線の抽出とこの特徴曲線による箕形態の再現を実施した。これにより，箕の形とそれを構成する材料の特性と作り方との関係が，先に調査されている千葉県匝瑳市の「木積の藤箕」の作り方，制作者の動きとの対比により明らかにされている。これにより「人の手の拡張」である「箕」の形から，地域ごとの素材，自然と生活者，人との関係への考察の可能性を確認することができる。あわせて「印相」が示す宗教的な意味の伝達機能も「手（の機能）の拡張」ととらえることで，「箕」と「印相」それぞれが，「人の手の機能を拡張したもの」と括りで位置付けるられることの可能性も示唆されている。
「阿鼻機流」については発見された設計図から飛行機モデルを再現し，CFDによる流体計算と演習課題としての実践を通して，この形にみられる自然物への着眼点と人工物の代表である飛行機への考案者の造形意図を辿ることを試みた。
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| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地域に残されている民俗学および考古学的価値を持った歴史的人工物を，研究分担者および研究協力者のそれぞれの専門性を活かし，効果的に研究を進めていると考えている。同時に，それぞれの造形物に対する形態測定・分析・評価・機能同定において得られた知見は，論文化，特別講演，特別講義において広く伝達する試みを継続的に実施している。今年度に発行された論文は民具関連で２報，社寺彫刻では特別講演１件，国外向けのオンライン講義では，民具および郷土玩具に関する知見の公開を行っている。また，印相に関しては１報，箕に関しても１報の論文投稿も終え，査読後採択され，発行待ちの状態にある。
「帰属判定」に関しては，前年度から継続課題である社寺彫刻・宮彫の一つである虹梁彫刻に注目し，昨年度解明されている「三次元形状特徴量」を指標として作者同定を実施している。宮彫に関しては日本宮彫協会所属の研究者からの研究協力も得ており，次年度に向けての本格的な研究の実施が期待される。
令和３年度科学研究費助成事業交付申請書の「補助事業期間中の研究実施計画」の記述では，今年度は「phase1」に相当し，『このフェーズにおいて，それぞれの造形物の物理的な位置づけを定量的な尺度において明確にしたい。』としている。今年度の形態分析ではそれぞれの形態の「物理的な機能・合理性」の解明・指摘までは初等的なレベルではあるが，それぞれの形態に対する新しい視点の提供の程度までには進めることが出来ているが，個々の形態の特殊性に限定されている傾向にある。形態個々から見出されている「物理的機能」の意味の深化のためにはさらに丁寧な分析と考察が必要であると考えている。さらに，「機能」に関しては「印相」に代表されるように「物理的」とする表現に必ずしも適合しない「機能」も間違いなく存在するので，「非物理的機能」への考察の展開の必要と考えている。
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| 今後の研究の推進方策 |
歴史的人工物のそれぞれの形態の測定・分析・評価，そして発表・報告を行っていく中で，これらの形態が示す本質的なものの形と人との間にある本質的な関係性についても人類学の視点で体系化する試みも始めている。現時点では，身体拡張の道具であると定義される民具の人類学的位置づけを参考にしながら，「人の手の拡張」としての「箕」と「印相」の普遍的な共通性を探ろうとしている。
phase2（研究年度2年目）に向けて，構造形態および材料同定から得られる形態学，民俗学，考古学的な知見をもとに，その造形物が創り出された自然環境，社会的環境への考察を通して，民俗学を専門とする研究分担者（桃井氏）とともに，民俗学的視点も含んだ複合的な観点から，研究対象とする造形物の評価・判定を実施する。民俗学的検証においては，それぞれの形態に対して特化した研究者が多く，桃井氏，高橋氏を中心とした専門家ネットワークを活かし，ここまで蓄積されてきている研究知見の効果的な統合を狙う。phase2では，phase1で明確にした物理的な判定をベースにおいて，より造形物と生活，社会との関わりについての考察を文化計画を専門とする植田氏，彫刻を専門とする田内氏とともに，デザイン学，民俗学，考古学的視点にならって深めていきたい。
これまでは研究分担者および研究協力者それぞれに調査し，得られた形態情報をオンラインで共有することで研究を進めてきたが，これから調査対象地域に赴き実調査を再開したいと考えている。それぞれの地域においてこれまでに得られた知見の情報交換と新たな形態の発掘を積極的に行いたいと考えている。「箕」に関しては，東文研の研究者を中心とした「箕の研究会」を母体として悉皆調査を計画している。
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| 次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により、予定していた資料調査の延期や、参加予定であった学会の中止などが発生したため、調査を含む研究計画を変更せざるを得ず、繰越金が発生することになった。
今年度、調査対象として結城市所蔵駕籠、鴻巣市所蔵民具、岩国市所蔵唐竿などにおいて新たな調査依頼を受けていることもあり、これを行うこととしたい。
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